覚え書:「新話 お寺とビジネス:下 都心の納骨堂、思わぬ課税」、『朝日新聞』2016年08月13日(土)付。

Resize3910

        • -

けいざい+ 新話 お寺とビジネス:下 都心の納骨堂、思わぬ課税
2016年8月13日


中央の建物が、宗教法人が3年前に開設した納骨堂。その右隣で別の宗教法人が納骨堂を建設中だ=東京都港区
 東京・赤坂の繁華街で、お寺が運営する納骨堂の建設が進んでいる。本堂と約8千基の納骨スペースを備えた地上6階建てのビル型納骨堂が、年内にもお目見えする。首都圏を中心に霊園開発を手がけるニチリョク(東京)が販売を代行する予定だ。

 建設中の納骨堂の隣には3年前、金沢市宗教法人「伝燈(でんとう)院」が地上5階建てで約3700基収容できる納骨堂をオープンさせた。近い将来、都心の一等地に納骨堂が並び立つ。

 限られた敷地に多くの遺骨の安置を可能にさせるのが、立体駐車場や倉庫で使われる「自動搬送式」というシステムだ。利用者が参拝所でカードをかざすと、ベルトコンベヤーで遺骨が運ばれてくる。人口集中と墓地不足を背景に、都市部に「新しいお寺」の建設が相次ぐ。だが思わぬ落とし穴があった。税金だ。

 伝燈院が、東京都による納骨堂への固定資産税の課税は違法だとして、課税取り消しを求める訴えを東京地裁に起こした。新たな納骨堂の建設を始めた住職がそれを知ったのは今から約1年前。「どの寺も墓地と同じで当然、非課税と思って納骨堂を建てている。課税されるかもしれないなんて、考えもしなかった」

 遺骨を納める点で、納骨堂は墓地と一緒だ。だが地方税法は、墓地について固定資産税を非課税と定める一方、納骨堂に非課税の定めはない。そこに課税の余地があると都は踏んだ。やはり地方税法に、宗教法人がもっぱら本来の目的に使う境内地や建物は非課税とする決まりがある。

 都は、伝燈院が宗旨・宗派を問わず受け入れ、仏壇・仏具の「はせがわ」に5割の手数料を払って販売を委託する契約を結んでいた点を指摘。納骨堂が宗派の教義を広める本来の目的に使われているとは言えない、と課税に踏み切った。

 今年5月の東京地裁判決も都の主張を支持。伝燈院が控訴しなかったため判決が確定した。都は「課税するかどうかは実態に応じて判断する」(固定資産税課)と、今後も同様の課税があるとにおわせる。

 仏教界には懸念と反発が広がる。住職向け専門誌「月刊住職」は「宗旨不問で業者と組んだがために当局の勝訴」「納骨堂課税は行政の宗教弾圧だ」とする記事を掲載。判決を契機に、納骨堂を非課税にしてきた全国の自治体に課税が波及する可能性を伝えた。

 納骨堂は、自治体以外では公益法人宗教法人しか運営できない。運営するお寺は経営面や建物の安全、衛生面など自治体が定めた設置基準を満たして初めて経営できる。

 現役住職でもある編集発行人の矢澤澄道(ちょうどう)(67)は「厳しい基準をクリアさせ、本来自らやるべき公益事業を寺に担わせておきながら、一方で税を課すのは矛盾している」と訴える。

 自動搬送式の維持にはコストがかかり、寺が単独で売りさばく営業力もない。永代にわたって供養するため、業者との「共同経営」も許容されるという。

 課税は妥当だとの声もある。慶応大学教授の中島隆信(応用経済学)は「料金を設定して販売する時点で宗教行為というよりビジネス。数多く販売するには宗派を問わないのが合理的だろうが、宗派の教えとはそんなに軽いものなのか」と話す。=敬称略(佐藤秀男)

 〈+d〉デジタル版に詳報

 ■ご意見は、keizai@asahi.comメールするまで。
    −−「新話 お寺とビジネス:下 都心の納骨堂、思わぬ課税」、『朝日新聞』2016年08月13日(土)付。

        • -





http://www.asahi.com/articles/DA3S12509506.html



Resize3113