覚え書:「売れてる本 おもしろい!進化のふしぎ―ざんねんないきもの事典 [監修]今泉忠明 [文]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。

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売れてる本
おもしろい!進化のふしぎ―ざんねんないきもの事典 [監修]今泉忠明
[文]宮田珠己(エッセイスト)  [掲載]2016年10月16日

表紙画像
著者:今泉 忠明、下間 文恵、徳永 明子、かわむらふゆみ  出版社:高橋書店 価格:¥ 972

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■ツッコミタイトルに誘われて

 珍しい生き物や、生き物のちょっと変わった性質を紹介する企画は、どうやら鉄板(必ずウケることがわかっている)ネタのようだ。数年前にも、イラスト入りでふしぎな生き物を紹介した『へんないきもの』(早川いくを著)という本が大ベストセラーになった。
 せち辛い人間社会とは無関係に、生き物たちが面白く生きている姿(本人たちは必死だと思うが)は、われわれの心をなごませ、同時にその奇妙な生き方は好奇心をかきたてる。
 この本にも、メガネザルは目玉が大きすぎて動かせないとか、サソリは紫外線を当てると光るが意味はないとか、ホッキョクグマの毛がぬけると肌は黒いとか、そんなミニ知識がひたすら並んでいて、とくに役立つ機会はなさそうだが面白い。
 もちろん生き物をテーマにすれば何でもいいわけではなく、売れる本には工夫がある。
 絵(写真)が大きく、文章が少ないことや、ユーモラスな文体、事典(図鑑)形式なので、すべて読む必要もないことなど、普段本を読まない読者を意識し、とっかかりのハードルを下げるのは、今や当たり前だ。
 さらに注目したいのは、タイトルが「へん」や「ざんねん」など、ツッコミ言葉になっていることである。
 以前なら、こういう本のキーワードは「なぞ」や「ふしぎ」が主流だった。私が子どもの頃は「なぞ」というだけでワクワクできたものだ。
 だが今ではそれらはサブタイトルに後退し、まず笑いを装うことが重視されている。
 「なぞ」はもう昔ほど心に響かない。テレビやネット上で次々と消費され、われわれはそれにすっかり慣れてしまった。もし本物の宇宙人に出会っても、今やたいして驚かないのでは? そう思ってしまうほどだ。
 それでも「ざんねん」な宇宙人なら見てみたい気がする。
 笑いの導入は、「なぞ」をなんとか盛り上げるための苦肉の策なのだ。
    ◇
 高橋書店・972円=13刷20万部 16年5月刊行。「小4男児を想定して作りましたが、若い女性や中年男性、97歳の女性まで、大人からの反響が多くて驚いています」と担当編集者。

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