覚え書:「著者に会いたい 学術書の編集者 橘宗吾さん [文]石田祐樹」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。
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著者に会いたい
学術書の編集者 橘宗吾さん
[文]石田祐樹 [掲載]2016年10月16日
橘宗吾さん=小川智撮影
■大事なことをつなげていく
学術書と聞くと、単に学者の論文を集めた本、と思う人もいるだろう。でも、まず編集者にアイデアがあり、書き手を探し、できる本もある。
日本が開国した時、欧米だけでなく、中国系の商人もたくさんやってきた。それが日本の経済史に衝撃を与えた−−という論文を読んだ名古屋大学出版会の編集者・橘さんは、「アジアからの衝撃は、文学では?」と考え、書き手を探し始めた。数年を経て、たどり着いたのが、当時、奈良女子大にいた中国文学者の齋藤希史(まれし)さんだ。「初めてお会いした時から、百年の知己に会ったようでした」
齋藤さんが東京大へ移ったあとも、なかなか本の形は見えなかった。だが、「アジアからの影響」ではなく、「日本と中国の相互作用」と考え方を変えたら、目次ができて『漢文脈の近代 清末=明治の文学圏』(名古屋大学出版会)が生まれた。発端の論文から十数年。橘さんは言う。
「自分がこれは大事だ、面白い、と思ったことをきちんと確保して、そこに一つ一つ点を打っていけば、線が見えてくる。なぜ面白いかは、あとでわかることもあります」
サントリー学芸賞を受けたこの本を始め、毎日出版文化賞、大佛次郎賞など、手がけた本の受賞数は百を超える。
「うれしいですし、著者も喜ばれますし、出版社としてはありがたい。でも、普段は極力考えないようにしています。ある女優が映画賞を取って、次も、と熱演した。あとで自分で見たら『賞を取りたい』という顔で、見ていられなかったと……。賞を取る方法はない。読者のことを考えてしっかり仕上げて、いい本を作る方法しかないです」
◇
慶応義塾大学出版会・1944円
−−「著者に会いたい 学術書の編集者 橘宗吾さん [文]石田祐樹」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2016101600015.html