覚え書:「著者に会いたい サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福(上・下) ユヴァル・ノア・ハラリさん [文]吉川一樹」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

Resize4061

        • -

著者に会いたい
サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福(上・下) ユヴァル・ノア・ハラリさん
[文]吉川一樹  [掲載]2016年10月23日

ユヴァル・ノア・ハラリさん=仙波理撮影
 
■対話重ね、大きな問いに挑む

 取るに足らない生物だったホモ・サピエンスが、なぜ地球を支配するに至ったのか。中世ヨーロッパの軍事史を専門とする研究者が「一つの時代、事件ではなく歴史の全体像を示したい」と挑んだ労作は48カ国で出版され、世界的ベストセラーになった。
 本の土台は、所属するイスラエルの大学で受け持った世界史の講義。読みやすさの源泉は、学ぶ側と重ねた「対話」だろう。「学生と意見を交わす中で、学生が何に興味を持ち、どこに力点を置くべきかが分かり、構想が固まった」。最初はヘブライ語で出版し、読者の反応を踏まえて改訂を加えた英語版を出した。
 影響を受けた著書に、やはり人類史というテーマに取り組んだジャレド・ダイアモンド氏の『銃・病原菌・鉄』を挙げる。「大きな問いに対して科学的な方法で答えている。しかも一般の人にも分かるストーリーにして。執筆の一つのモデルになった」。氏に2度会い、刺激を受けた。
 本書は人類の歩みを、言語獲得による「認知革命」、農耕を始める「農業革命」、そしてヨーロッパ発の「科学革命」を軸に論じた。ユニークなのは、大変革が人々の幸福にどう関係したかという視点だ。たとえば農業革命によって、人々は狩猟採集より過酷な単純労働を強いられ、一面では不幸になったと考える。「人類は、より大きな力を得ることにはたけているが、その力を幸せに転換する能力は高くない」と喝破する。
 未来に楽観的か、悲観的かと尋ねると、一度スルーされた。「リアリストとしては前もって評価することは難しい」というのが真意だったそうだ。歴史家は、人工知能遺伝子工学が起こすであろう「今までで最大の革命」の姿を見定めようとしている。
    ◇
 柴田裕之訳、河出書房新社・各2052円
    −−「著者に会いたい サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福(上・下) ユヴァル・ノア・ハラリさん [文]吉川一樹」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

        • -





http://book.asahi.com/reviews/column/2016102300012.html


Resize3223



サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社
売り上げランキング: 402

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社
売り上げランキング: 497