覚え書:「書評:経済学のすすめ 佐和隆光 著」、『東京新聞』2016年11月13日(日)付。

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経済学のすすめ 佐和隆光 著

2016年11月13日
 
現状追認への危機感
[評者]根井雅弘=京都大教授
 昨年六月、一つの文部科学大臣通知が波紋を投げかけた。一言でいえば、人文社会系学部や大学院は組織を廃止ないしは再編し、もっと社会的要請の高い分野への転換を図るべきだというのだ。
 この通知に対しては、有名大学の学長らがただちに反対を表明したが、本書の著者はある意味で最も徹底した反論を展開した。すなわち、同年八月二十三日付「ジャパンタイムズ」への寄稿で、次のように主張したのである。理科系の学問のみを産業競争力の強化に役立つかのように考えるのは時代錯誤であり、欧米ではむしろ「人文知」の役割を重視する伝統がある。それに支えられてこそ革新的な技術進歩や発明などが促進されるということが正しく認識されている、と。
 本書はこの大臣通知の話から始まる。経済学も「人文知」の一翼を担う重要な学問だが、著者はその現状を手放しで礼賛することはしない。経済学界では自然科学に倣(なら)い、査読付き一流専門誌に掲載された論文の量と質によって学者をランク付けする制度が根づいてきたが、これだけでは「人文知」が育つことはない。
 著者によれば、ガルブレイスのような「批判精神」をもった学者がもっと増えなければ、経済学は現状追認の学問に堕してしまう可能性がある。著者の危機意識は本物であり、この学問の現状を憂えるがゆえの提言として貴重である。
岩波新書・842円)
 <さわ・たかみつ> 1942年生まれ。経済学者。著書『日本経済の憂鬱』など。
◆もう1冊 
 宇沢弘文著『経済学の考え方』(岩波新書)。アダム・スミス以来の学説を解説しながら経済学のあるべき姿を語る。
    −−「書評:経済学のすすめ 佐和隆光 著」、『東京新聞』2016年11月13日(日)付。

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