覚え書:「街頭政治 SEALDsが残したもの:5)米の手法、衆院補選で実践」、『朝日新聞』2016年08月23日(火)付。

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街頭政治 SEALDsが残したもの:5)米の手法、衆院補選で実践
2016年8月23日

 今年2月のある深夜、SEALDs(シールズ)中心メンバーの奥田愛基(あき)(24)の携帯がけたたましく鳴った。相手の声は興奮で震えていた。

 「日本の選挙と全然違うぞ。俺たちはまだ、やれることがある」

 電話は、米国にいる山本雅昭(27)からだった。奥田とは脱原発デモの頃から行動を共にしてきたが、2014年に渡米し、アイオワ州にあるすし屋で働いていた。

 山本は、米大統領選の民主党党員集会の会場を見に行っていた。米主要メディアで圧倒的な優勢が伝えられていたクリントン候補に対して、若者らの支持を背景にしたサンダース候補が猛烈に追い上げ、接戦に持ち込んでいた。

 サンダース陣営のホームページには「This is your movement(これはあなたの行動だ)」と書かれていた。画面いっぱいに候補者を応援する市民が映し出され、寄せられた言葉も掲載されていた。「サンダース氏に共感する人をボランティアとして運動に巻き込み、ムーブメントを起こそうとしている」

 山本は、安全保障関連法が施行された3月29日に帰国。空港からリュックを背負ったまま国会前のデモに足を運び、久しぶりにシールズに合流した。山本はこの時、約1カ月後の4月24日に投開票される衆院北海道5区補選の存在を知り、米国で見てきた選挙戦の手法を野党共闘となった池田真紀陣営を支援しながら試そうと決めた。4月3日に企画書を練り上げると、9日には札幌に飛んだ。

 「1万人規模の集会をやりましょう」

 現地の民進党共産党の選挙担当者に面会を求めて提案したが、「いきなり言われても」と反応はつれなかった。その代わり、札幌学院大教授で、北海道版「市民連合」とも言える「市民の風・北海道」共同代表の川原茂雄(59)を紹介してもらった。

 山本から相談を受けた川原は、4月17日に札幌市内の厚別中央公園で集会を開くことを決めた。山本は川原らを説得し、持ち込んだ企画書を実践に移す。

 選挙カーは使わない。演説会場にはビール箱を並べて低いステージをつくり、プラカードを持った市民が候補者を取り囲む。国会議員ら政治家は壇上に上げず、学生や主婦らにマイクを握らせ、応援する思いを自由に語ってもらった。参加者は千人程度だったが、画面いっぱいに市民が映り込むように演出し、参加者が撮影した動画や写真はネット上に拡散した。

 「市民が自分たちの代表を押し上げる、そんな一体感が生まれた」。市民運動に熟練した川原は、山本による新たな手法をこう評した。選挙戦は、地力に勝る与党に競り負けた。だが、朝日新聞が実施した出口調査では、野党統一候補無党派層の68%から支持を得ていた。

 数日後、東京で山本と補選の成果や課題を話し合った奥田は、この経験をマニュアルにするよう促した。3カ月後に迫る夏の参院選で、シールズメンバーが野党が共闘している各地の選挙区に飛び込み、それぞれの陣営を支援する構想を描いていた。

 =敬称略

 (石松恒)
    −−「街頭政治 SEALDsが残したもの:5)米の手法、衆院補選で実践」、『朝日新聞』2016年08月23日(火)付。

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