覚え書:「【書く人】歴史の分岐点で輝く 『井伊直虎 女領主・山の民・悪党』一橋大附属図書館助教・夏目琢史さん(31)」、『東京新聞』2016年11月20日(日)付。

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【書く人】

歴史の分岐点で輝く 『井伊直虎 女領主・山の民・悪党』一橋大附属図書館助教・夏目琢史さん(31)

2016年11月20日

 井伊直虎(なおとら)は、二〇一七年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の主人公。夏目さんは直虎の地元・浜松市の出身で、中学三年の自由研究で調べて以来、彼女に関心を持ってきた。歴史の転換期を生きた女性として、大きなスケールで直虎を描いた一冊だ。
 「直虎」と言われても詳しく知る人は少ないだろう。「僕の学生時代には、インターネットで彼女のことを検索してもほとんど出てこなかった。小説で描かれたり、一部の戦国マニアが注目し始めたりして、ここ十数年の間に存在が知られるようになってきました」
 浜名湖の北にある井伊谷(いいのや)周辺を中世から治めていた井伊家は戦国時代、今川、織田ら有力大名のせめぎ合いの狭間(はざま)にあった。直虎は井伊家当主の娘として生まれる。だが、井伊家を継ぐはずだった許嫁(いいなずけ)が、今川家との争いに巻き込まれたことで彼女の人生は大きく変わった。出家して「次郎法師」と名乗った直虎は、戦国の世では珍しい女当主となる。独身を通した彼女は、許嫁の遺児を徳川家康に託し、井伊家を再興する道を開いた。
 本書では、広大な山間部を治めていた井伊家を「山の民」と位置付ける。そこに女性中心の母系制社会が存在していたと推論し、女当主が誕生した背景を探る。自然と寄り添って生きてきた「山の民」から都市民たちの文明へ。母系制社会から男性中心の徳川幕府へ。こうした歴史の分岐点にいた彼女の宿命を論じた。「直虎が当主だったのは数年間という短い間だったと思います。天下国家を変えるような大きな功績を残したわけではないが、そこが逆に身近で魅力的です。女性が活躍する今の社会だからこそ、注目される意味があると思います」
 学生時代から近世村落史を専門にしてきた。「近世史は資料が豊富です。研究者が見ていない古文書が大量にある。その資料を見て誰も知らなかった歴史を明らかにする作業は、非常に面白い」
 近世人と現代人は何が違うのかという問題に今、注目しているという。「近世の人を知るために、彼らが寝ている間に見た夢などを手掛かりに調べています。現代とは違った社会を知り、今の社会のあり方を考える。それは歴史の醍醐味(だいごみ)であり、人生をより豊かにする大切な作業だと思います」
 講談社現代新書・八二一円。 (石井敬)
    −−「【書く人】歴史の分岐点で輝く 『井伊直虎 女領主・山の民・悪党』一橋大附属図書館助教・夏目琢史さん(31)」、『東京新聞』2016年11月20日(日)付。

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