覚え書:「書評:ノーベル経済学賞 根井雅弘 編著」、『東京新聞』2016年11月20日(日)付。
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ノーベル経済学賞 根井雅弘 編著
2016年11月20日
◆理論と社会の変化 跡づけ
[評者]中沢孝夫=福山大教授
ノーベル経済学賞の意味を問いつつ、賞を授与された学者のそれぞれの「理論」を通して、経済学がどのように進化(深化)、あるいは変化をしてきたかを跡づけた本である。
一九六九年から今日までを四期に分け、廣瀬弘毅をはじめとする四人の研究者が受賞者を紹介しながら、受賞者の「理論」確立の時代背景と、その考え方を分析した本書は、そのまま優れた経済学のガイダンスとなっている。
経済学賞はノーベル賞の中で異端である。もともとノーベルの「遺言」にはなく、スウェーデン国立銀行のノーベル財団に対する働きかけによって一九六八年に設立された賞である。いわば「嫡出」ではないのだ。
また物理学、化学、生理学・医学などが備える客観性をもたないとも言われる。それは編者の根井雅弘が解説しているように、「西側の価値観の持ち主」が選ばれがちなことへの批判とも重なる。確かに選考に「イデオロギー」が介在する余地がありすぎるのだ。
とはいえ評者は、この場では「イデオロギー」という言葉を「目的意識」という意味で使っているが、経済学賞は平和賞や文学賞のもつ「いかがわしさ」よりもはるかに歴史的な評価に耐えるものとして、社会的な「地位」を確立したと思っている。
標準的な「教科書」(ポール・サミュエルソン)から金融工学やゲーム理論まで、読者は四人の案内により、ノーベル経済学賞受賞者やその師匠の経済学や経済政策を学びながら、私たちが暮らす社会を理解する大切な切り口を知ることができるのだ。例えばそれは、アマルティア・センの「格差」への「潜在能力」からのアプローチや、逆に「できもしない理想を掲げ、熱狂する」愚かさへの戒め(フランク・H・ナイト)などである。
「実用」という意味では、「医学」や「化学」のようには明瞭なものではないが、「経済学」がもつ役割をくっきりと浮かび上がらせる本である。
(講談社選書メチエ・1782円)
根井雅弘、廣瀬弘毅のほか中村隆之、荒川章義、寺尾建が執筆。
◆もう1冊
根井雅弘著『20世紀をつくった経済学』(ちくまプリマー新書)。ケインズ、シュンペーター、ハイエクの思想から資本主義の本質に迫る。
−−「書評:ノーベル経済学賞 根井雅弘 編著」、『東京新聞』2016年11月20日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016112002000176.html