覚え書:「にっぽんの負担 公平を求めて 寄付とビジネス「三方よし」」、『朝日新聞』2016年08月29日(月)付。

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にっぽんの負担 公平を求めて 寄付とビジネス「三方よし
2016年8月29日


バリューブックスの倉庫には、全国から送られてくる大量の古本が保管されている。右が中村大樹社長=長野県上田市
 
 インターネットを通じて古書を売買する「バリューブックス」(長野県上田市)は、ネット販売の古本会社としては国内で最大級で、市内3カ所の倉庫に200万冊近い在庫を持つ。

 市内の高校出身の中村大樹社長(33)が東京の大学を出た後、24歳で設立した。現在は約20人の社員のほか、倉庫で仕分け作業に従事するアルバイトが300人近くいる。直近の年間売り上げは16億円。創業以来、順調に売り上げを伸ばすことに貢献しているのが、古本を買い取った際の買い取り価格をNPO自治体に寄付してもらう仕組み「チャリボン」だ。

 通常の取引は、本やDVDを査定し、買い取り額を提供者の口座に振り込む。

 チャリボンでは提携するNPOなどをサイトで紹介。その中から寄付したい団体を申込時に決めてもらう。バリュー社は査定額を決めた後、提供者が指定した団体にお金を振り込む。

 出品は原則5点から。電話かサイト上で申し込むと宅配業者が取りに来てくれる。提供者は送料もいらず不要本を引き取ってもらえ、寄付ができる。仕組みを導入したのは6年前。若者の就労支援に取り組むNPO法人「育て上げネット」(東京)の工藤啓理事長(39)との話し合いからアイデアが生まれた。

 工藤さんは「本の仕入れを増やしたい企業と、処分したい利用者を寄付でつなぐ。我々は活動資金が増えるから、この仕組みを宣伝する。三方よしです」。育て上げネットにはチャリボンで、これまで800万円超の寄付があった。

 チャリボンが画期的なのは、参加者が増えれば増えるほど本業の売り上げ増につながることだ。さらに、自ら進んで告知しなくとも活動金ほしさにNPO側が熱心にPRしてくれる。

 「みんなでチャリボンの仕組みをシェアすることで、お客さんが寄付する行為を手伝える。僕らの本業のパイも大きくなる。これならウチのような小さい会社でも長くできる」。中村社長はそう話す。

 現在は約90のNPO法人以外に、東京大学をはじめ55の大学と六つの自治体がチャリボンに参加する。岩手県陸前高田市は、集まったお金を津波で全壊した図書館の再建費に充てる。法政大学は家計の苦しい学生の奨学金に役立てている。全体でのべ10万人以上が1150万冊を提供し、2億4千万円強の寄付をした。バリュー社の年間売り上げの約2割がチャリボンから得た本によるものという。

 ■企業巻き込む募金付き

 福祉業界の側から、社会課題の解決に企業を巻き込む動きも出ている。主なツールとなっているのが「寄付つき商品」だ。

 中央共同募金会によると、47都道府県のうち、約20の共同募金会が「募金百貨店プロジェクト」などと銘打ち、各企業に合った商品を一緒に企画、開発している。客に負担をかけずに、企業が売り上げの中から一定額を、赤い羽根共同募金に寄付する仕組みだ。

 4年前、最初に始めたのが山口県共同募金会だ。当時、県の社会福祉協議会から出向していた久津摩(くづま)和弘さん(36)が考案した。

 欧米にはNPOや大学など、非営利団体の多くに「ファンドレイザー」と呼ばれる資金調達の専門家がいる。対照的に日本では、非営利団体は国や自治体の補助金などに頼りがち。資金調達するノウハウに乏しく、企業との連携を避けがちだと感じていた。

 一方、企業の側は社会に役立ちたい思いはあっても現場には疎く、どう貢献したらいいか悩むケースも多い。両者を寄付つき商品で結びつけられないか。久津摩さんはそう考えた。

 最初に提案に応じたのが山口市内の仕出し弁当屋「かとう」だった。坂井孝部長(40)によると、当時会社は赤字続きで存続の危機にあった。「新規投資がゼロで会社のPRになるならやってみようかと」

 客が「赤い羽根弁当」を注文すれば、1個につき10円をかとうが赤い羽根に寄付する。2012年春に売り出すとメディアで取り上げられ、官公庁や地元の福祉施設がまとめ買いしてくれるようになった。かとうはこの年度から赤字を脱したという。寄付額は年に10万円ほど。「ほんのわずかでも我々のような中小企業が地域に貢献できるのはありがたい」と坂井部長。

 山口県下松市のショッピングセンター「ザ・モール周南」でも、八百屋や鮮魚店、肉屋といったテナントが「揚げ物の売り上げ1%」と、一部を寄付つき商品として売る。

 山口県で募金百貨店プロジェクトに参加する企業は105社に達した。発案者の久津摩さんは現在、独立。子どもの貧困などの社会課題に、よりダイレクトに企業の参画を促す仕組みづくりに取り組む。久津摩さんは「国や自治体に予算がないからとあきらめるのでなく、企業を巻き込んでお金を調達する姿勢が、福祉に携わる人間には求められる」と話す。

 ■社会貢献、小学生に授業

 社会の課題解決に資金を呼び込むには、若いうちから社会貢献を身近に感じてもらうことも重要だ。NPO法人日本ファンドレイジング協会は6年前から、「寄付の教室」を開く。

 8月初旬の夏休み。育児支援を手がけるNPO法人フローレンス(東京)であった授業には、小学生の男女11人が参加。同法人が取り組む「病児保育」「小規模保育」「障害児保育」のなかから、どのプロジェクトを応援したいか。それぞれの担当者の説明を聞き、寄付先をひとつ選んだ。

 実際にお金を出すわけではないが、寄付がどう社会と結びついているかを知り、自ら寄付先を考える習慣をつけてもらう狙いだ。寄付の教室はこれまで小学校から大学まで全国で110回以上開いた。「ゆくゆくはすべての小中高校で実現したい」(担当者)という。

 協会の推計では、2014年に日本人の個人の寄付総額は7400億円に達した。ただ名目GDP比では0・2%。米国の1・5%(27・3兆円)や英国の0・6%(1・8兆円)に見劣りする。代表の鵜尾雅隆さんは「応援したい活動を自ら選び、その結果感謝され、達成感が得られるという原体験を通して、寄付のイメージを前向きなものに変えたい」と話す。

 ■<解説>お金の使い道、敏感に

 身近な寄付は広がっている。通信や宅配網が発達したことも、「善意」を気軽に届けやすくしている。古本の買い取り額がNPOらの活動資金に回る「チャリボン」はその一例だ。

 税制面では2011年に寄付優遇税制が実現。一定の要件を満たす団体向けの寄付なら、最大で寄付額の半分近くが所得税や住民税から減税される。ただ恩恵を受けるには確定申告が必要で、浸透しているとは言いがたい。年末調整の項目に寄付金控除も加えるなど、使い勝手を良くする工夫がさらにいる。

 資金の受け手側には、「何に使われているのか?」という疑念を解消する丁寧な説明が求められる。

 高齢化社会を支えるために負担増が避けられない。ならば公平な負担とは何か。「にっぽんの負担」では税や社会保障による富の再分配が十分機能していない現状を伝えてきた。社会の課題を解決するための寄付や投資は、この機能を補う可能性を秘める。

 寄付や投資をする側、される側双方が、その使い道や成果に敏感になる。個人や企業、NPOらが協働して課題を解決するスキルを磨く。そのことは同時に、行政の無駄をチェックする力を強め、税の使い道や再配分のあり方を問い直すことにもつながるはずだ。(佐藤秀男)

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