覚え書:「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊! [文]福永信(小説家)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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文庫この新刊!
福永信が薦める文庫この新刊!
[文]福永信(小説家)  [掲載]2016年11月13日
 
(1)『読んでいない本について堂々と語る方法』 ピエール・バイヤール著 大浦康介訳 ちくま学芸文庫 1026円
(2)『さあ、気ちがいになりなさい』 フレドリック・ブラウン著 星新一訳 ハヤカワ文庫SF 994円
(3)『写楽 江戸人としての実像』 中野三敏著 中公文庫 799円
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 (1)とかく読書は推奨される。「読んでない」となれば罪悪感を覚えもする。考えてみればフシギだが本書はそれを文化的な拘束と見なす。読者が陥っているそんな「洗脳」を解こうと、著者は「読まない」ことの積極的な意味を説く。本という単位の解体を目指す。著者(と訳者)による生真面目な文体も笑える。(2)日米のレジェンドによる夢の競演。50余年前の翻訳とは思えぬ安定の読み易(やす)さは訳者の真骨頂だ。著者は多彩な世界を書く名人。色彩、時間、音、空間を自在に操る果てに縁どられるのは「人間」という空虚な存在である。オチの余りの鮮やかさにこの著者(と訳者)の書き出しの見事さを忘れちゃわないように。(3)ミステリではもっとも怪しかった人物が犯人であることがかえって驚きをもたらすが、著者が到達した結論もそうだった。謎の浮世絵師、写楽の正体へと読者を導く一冊でありながら「犯人」捜しに終始しない。書物だけで辿(たど)るほかない近世という時代を旅する大変さ、楽しさを著者(と写楽)が伝えてくれる良書である。
    −−「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊! [文]福永信(小説家)」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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