覚え書:「待遇同じだから、父も時短 同一労働同一賃金、オランダでは」、『朝日新聞』2016年08月29日(月)付。

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待遇同じだから、父も時短 同一労働同一賃金、オランダでは
2016年8月29日


夫婦ともに週4日の時短勤務を選んだエドガーさん一家。平日に休む1日を「子どもの日」と呼ぶ=オランダ、和気真也撮影
 働き方の先進地とされるオランダでは、育児で働く時間や日数を減らしてパートタイマーになっても、時給換算ではフルタイムと同水準の賃金で働く人がいる。パートでも無期雇用で働く人が多く、「同一労働同一賃金」が浸透していることが背景にある。パートで働くオランダの家族を訪ねて実情を聞いた。

 ■育児のため自ら選択

 オランダのアムステルダムに住む、エドガー・レクストロ・ライスダイクさん(48)にとって、毎週金曜日は「子どものための日」だ。朝、3人の子どもを学校に送り届け、家を片付けて、夕食の支度をする。子どもが帰宅すると、一緒に遊んだり宿題をみたり。仕事より大変と感じることもあるが、「3人を世話する時間が、父親の責任感を育ててくれるよ」と笑顔で話す。

 大手都市開発コンサルティング会社に勤務し、設計士を束ねる役職にあるエドガーさん。12年前に長男が誕生し、生活は大きく変わった。会社には勤務形態を選べる仕組みがあり、週5日のフルタイム勤務から、週4日のパートタイム勤務への変更を上司に申し出た。

 勤務時間が減ったので、収入は減った。「給料やボーナスが週1日分、つまり2割ほど減ったことぐらい」。オランダでは、フルタイムかパートかどうかで、時間あたりの賃金に差は生じない。昇進にも影響はなかった。

 高等専修学校教員の妻、クラールチェさん(44)も、同様に週5日から4日勤務になった。「昔より仕事に集中するから、こなす仕事量はそんなに変わらない。会社にとっても賢い選択ね」。夫婦ともに無期雇用のパートタイムで働いている。

 ユトレヒト大学のフランス・ペニングス教授(労働法)によると、オランダで働く女性の75%、男性の20%が、フルタイムよりも労働日数・時間が短い「パートタイマー」。全労働者の49・8%がパートで、欧州平均の19・9%を大きく上回る。オランダでは勤務時間以外の労働条件がフルタイムと変わらないパートタイマーが珍しくなく、日本のパートとは異なる。

 オランダは景気低迷にあえいだ1980年代から労働市場の改革を図ってきた。82年、国全体の労使で「ワッセナー合意」を結び、賃金水準を抑える代わりに労働時間を短くして雇用を守る「ワークシェアリング」を掲げた。結婚後は主婦になるのが一般的だった女性の価値観も変わり、パートで働き続ける女性が増えた。

 オランダでは最近、男性のパートも増えている。ペニングス教授は「子どもの保育費が高いことが背景にある。働く日数を調整して、自分で子どもを世話する方が家計に優しい、と考える夫婦が増えている」とみる。

 大手人材会社ランスタッドのアンネマリー・ムンツさんは、「ライフステージに合わせて、働く時間と収入と生活のバランスをコントロールしやすいのが、この国の特徴」と話す。制度を整えるだけでなく「実際に使う文化を育てることが大切」とも話す。「根気はいります。オランダも1世代分の時間をかけたのですから」

 3人の父親のエドガーさんが「パート勤務にしたい」と相談した時、上司はこう応じた。「人生最後の時、もっと働いておけばよかった、と嘆くヤツはいない。もっと、と望むのは家族との時間のはず。だったら、今それを手にするべきだよ」

 ■転勤・残業、日本は条件差が壁

 「オランダモデル」とされる雇用形態は日本にも採り入れられるのだろうか。千葉大の水島治郎教授は「今のままでは難しい」という。日本とオランダでは労働慣行が異なるためだ。

 オランダの場合、フルタイムとパートタイムで、勤務時間以外の労働条件がほぼ同じことは珍しくない。日本の場合、パートタイムは非正社員とされ、正社員とは労働条件が異なっている。正社員はフルタイムの無期雇用で、勤務時間外も残業で長時間働き、頻繁な転勤も受け入れるのが一般的だ。パートタイマーは勤務時間や業務、勤務地が限定されがちだ。

 日本では「働き方改革」の一環で、正社員か非正社員かに関わらず同じ仕事内容であれば同じ賃金を払う「同一労働同一賃金」を目指している。ただ、働き方が異なる慣行が残れば、正社員と非正社員との賃金差は「働き方は違うのだから合理的だ」となりかねない。水島教授は「まずは、正社員の労働時間に上限を設けるべきだ。同時にパートとの格差を禁じ、処遇を引き上げるのがいいのではないか」と話す。

 オランダでも課題はある。水島教授によると、男性が出世を気にしてしまい、専門職以外ではパートを選ばないケースがある。パートを選ぶのは女性が中心になり、キャリアで男女に差がつきがちだという。「オランダでは、フルタイムで働きたいのにパートで働く女性が多いわけではないが、『パートでは女性は自立できない』という議論もある」と指摘する。(和気真也、末崎毅)
    −−「待遇同じだから、父も時短 同一労働同一賃金、オランダでは」、『朝日新聞』2016年08月29日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12532882.html





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