覚え書:「著者に会いたい 幻の料亭・日本橋「百川」―黒船を饗した江戸料理 小泉武夫さん [文]大上朝美」、『朝日新聞』2016年12月04日(日)付。
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著者に会いたい
幻の料亭・日本橋「百川」―黒船を饗した江戸料理 小泉武夫さん
[文]大上朝美 [掲載]2016年12月04日
小泉武夫さん=早坂元興撮影
■粋な華やぎ、食も遊びも
発酵学を専門に食文化を広く研究し、著書も数多い小泉さんが、落語でもおなじみの江戸の一流料亭「百川」を探究した異色の本だ。日本橋浮世小路に店を構え、多くの文人や旦那衆を迎えた数々の献立を紹介、江戸の食文化の華やぎを小説仕立てで伝える。
「落語の『百川』は子どもの頃から聴いていましたが、調べてみると、すごい料理を作っていた。魚河岸がすぐ近くで、魚は新鮮ですしね」
食べるばかりでなく大田南畝や山東京伝・京山兄弟、谷文晁、亀田鵬斎ら、豪華な顔ぶれの常連たちが、調味料を工夫したり蒸留器を持ち込んで実験したりと、粋な遊びを繰り広げる。とりわけ小泉さんが心引かれたのは、あるじ百川茂左衛門の懐の深さだ。
「殿様とも付き合う一方、文人たちのパトロンになって自分も楽しんだ文化人。ほれぼれするような人物です」
その面目躍如たるものが、1854年、ペリー一行を幕府が接待した500人分の食事の請負である。国の威信をかけ、すべて正式な日本料理である本膳料理を提供した。献立史料によると、約90種類の料理に、陶磁器、漆器など器が15種類。「それが500人分です。冬ではありましたが、冷蔵庫のない時代に……考えられないですよ」
茂左衛門一世一代のオモテナシはしかし、米国人の口には合わなかった。しかも現代の価格で1億5千万円という代金を、幕府は払えなかったろうと小泉さんは見る。
「百川」は明治以後、何の記録も残さず消滅。ただ、困難な注文に応えた茂左衛門の心意気と手腕に、小泉さんは「よくぞやった!」と称賛を送るばかりである。落語「百川」の人物が近しく思えてくる。
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新潮社・1404円
−−「著者に会いたい 幻の料亭・日本橋「百川」―黒船を饗した江戸料理 小泉武夫さん [文]大上朝美」、『朝日新聞』2016年12月04日(日)付。
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