覚え書:「リレーおぴにおん 本と生きる:3 議論起こすため、本並べる 福嶋聡さん」、『朝日新聞』2016年09月07日(水)付。
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リレーおぴにおん 本と生きる:3 議論起こすため、本並べる 福嶋聡さん
2016年9月7日
福嶋聡さん=滝沢美穂子撮影
大阪の繁華街の大型書店で、店長を務めています。ここ数年、目につくのが、在日コリアンらを攻撃するヘイト本や嫌韓本、嫌中本です。一時ほどの勢いはありませんが、売れているのは事実です。書店はこうした本と、どう向き合ったらいいのでしょうか。
勝手な主張で事実をゆがめ、人々の心を傷つけるような本は、売るべきではないという意見もあります。しかし、僕はこうした本を書店から排除すべきではないと考えています。
1995年、地下鉄サリン事件のとき、多くの書店はオウム真理教関係者の著作を一斉に撤去しました。しかし、僕は売りました。なぜ前代未聞の事件が起きたのか。それを知るには、かかわった人たちの著作物を原資料として読む必要があります。書店はそれを提供する責任があると思います。
売り方を工夫することで、自らの立場を示すこともできます。
書店員はジャンルごとに棚を任され、自分が選んだ本を並べます。僕は、月1回のペースで「店長本気の一押し」コーナーをつくっています。「Stop ヘイトスピーチ、ヘイト本」と題して関連する本をまとめ、例外的に何カ月も続けたことがあります。「本屋は、つべこべ言わずに売ればいいんだ」という人もいるでしょう。抗議の電話もありました。
しかし、僕はそうは思いません。作家の高橋源一郎さんは、民主主義を「たくさんの、異なった意見や感覚や習慣を持った人たちが、一つの場所で一緒にやっていくためのシステム」(「ぼくらの民主主義なんだぜ」)と定義しています。民主主義のため、書店は様々な書物が喚起する、活気に満ちた議論の場であるべきです。著者を呼んでトークイベントをするのも、そのためです。議論においては、そもそも中立はあり得ません。
クレームを恐れて、個性を出すことに萎縮する店もあるでしょう。しかしクレームにひたすら謝るのではなく、「私の意見とは違います」と言ってもかまわないと思います。議論をせずに、なんとなく物事が決まっていくのは、民主主義ではありませんから。
本というのは実に自由な存在です。テレビはスポンサーの意向に左右される。新聞は何百万人の読者がいるので慎重にならざるを得ません。でも、出版社はひとりでも始められる。ただ、新刊書店だけでは限度があります。図書館や古書店があってこそ、民主主義のための議論の場が広がります。
皆さんが何げなく足を運んでくださる書店ですが、僕たちはこんな思いを込めて本を並べているのです。
(聞き手・桜井泉)
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ふくしまあきら ジュンク堂書店難波店店長 1959年生まれ。大学で哲学を学び、ジュンク堂書店に入社。日本出版学会会員。著書に「紙の本は、滅びない」「書店と民主主義」など
−−「リレーおぴにおん 本と生きる:3 議論起こすため、本並べる 福嶋聡さん」、『朝日新聞』2016年09月07日(水)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S12546814.html