覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 名作パワーに挫折を越えるヒント サンキュータツオさん [文]サンキュータツオ」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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悩んで読むか、読んで悩むか
名作パワーに挫折を越えるヒント サンキュータツオさん
[文]サンキュータツオ  [掲載]2016年11月13日

76年生まれ。漫才コンビ米粒写経」として活動。一橋大学非常勤講師。『国語辞典の遊び方』など。
 
■相談 第一志望の大学に落ち、落ち込む息子

 高3の息子が先日、第一志望の大学の試験に落ちてしまいました。合否の確率は五分五分でした。ショックは相当なものだったようです。次の手段を考えるすべもなく毎日、暗い表情です。「長い人生なんだから」と親が表面的に論じたところで何の解決にもならず……。何とか立ち直って、自ら気持ちを切り替えさせる方法はありますか?
 (新潟県、女性・48歳)

■今週はサンキュータツオさんが回答します
 受験というのは、頭の良しあしではなくて、ゲーム巧者が勝つ、といった側面が強いもの。そこに気づいてもらうことが一番なのですが、大事なのは受験は「目的に向かって自分がどれだけの努力ができる人間か」ということをはかる大きな体験だということです。百%やりきったと胸を張っていえるのか。がんばれなかった人は、長い間「自分は目的に向かって、がんばれない人間だ」と思い込んでしまう危険がある。それだけ若い人にとっては大きな経験です。挫折に対処する、というとても重要な局面も、受験にはありますよね。
 こういうときは、圧倒的におもしろいものに触れるのが一番です。映画とか、演劇とか落語とか、ゲームでもいいです。大人が本気で作ったおもしろいものに触れ、圧倒されると、パワーをもらえる。自分の悩みなんかちっぽけだったと気付かされるはずです。村上龍『69』は、1969年の長崎を舞台にした高校生たちの物語。古典的名作ですが、いま18歳の息子さんは知らないかもしれませんよね。この小説をどう読むかいろいろな立場があるかとは思いますが、とにかくめちゃくちゃおもしろいことだけは保証します。
 美内すずえガラスの仮面』(白泉社、1−49巻、各463円)は、北島マヤという主人公が芝居の魅力に魅せられて女優を目指す物語。元女優の月影千草との出会いと彼女との厳しいレッスンを通して、演劇界のスーパーエリートと大役を競うという、こちらも国民的人気作。ですが、男子高校生は手に取ったことがない可能性大。面白いです。
 説教くさいことや気休めは、いまの息子さんには通じないかもしれません。ですが、実はこれらの作品には挫折をどう乗り越えるか、少しだけそのヒントが隠されています。50年代生まれの作家たちのパワーに触れると、私はやる気がみなぎります。まだいける、まだまだやれる、という精神を注入されるのです。
 最先端だけに答えが詰まっているのではありません。この機会に古典的名作の絶倫パワーを!
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 次回の回答者は書評家の吉田伸子さんです。
    ◇
 ■悩み募集
 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を差し上げます。
    −−「悩んで読むか、読んで悩むか 名作パワーに挫折を越えるヒント サンキュータツオさん [文]サンキュータツオ」、『朝日新聞』2016年11月13日(日)付。

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