覚え書:「ビジネス 亡国の密約―TPPはなぜ歪められたのか [著]山田優、石井勇人 [文]森健(ジャーナリスト)」、『朝日新聞』2016年07月10日(日)付。

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ビジネス
亡国の密約―TPPはなぜ歪められたのか [著]山田優、石井勇人
[文]森健(ジャーナリスト)  [掲載]2016年07月10日

自由貿易とほど遠い交渉の内幕

 昨年10月、難航の末、大筋合意したTPP(環太平洋経済連携協定)。大半の農畜産物の関税が撤廃・大幅削減となる中、コメは778%という高率の関税が維持された。と同時に、米国とは年間7万トンの無関税輸入枠が新設されていた。自由貿易という名目とはほど遠い、米国との妥結。じつは昔から続けられてきた慣習でもあった。本書はその“密約”を暴いたリポートだ。
 源流は30年前にはじまった多国間通商交渉ウルグアイ・ラウンドだ。農政に詳しい著者らが過去20年間のミニマム・アクセス(農産品の最低限の輸入枠)のコメの入札結果を調べると、米国の落札比率はなぜか47%に落ち着いていた。赤字であっても一定量を米国から購入する仕組み。著者らは公文書から関係者まで丁寧に取材を進める中で“密約”を炙(あぶ)り出していく。
 そしてTPP。過去の交渉では農水省が主役だったが、TPPでは官邸と外務省、経産省に移る。それゆえ、TPP交渉では農業とは異なる種類の“密約”が交わされていく。この交渉の背景も日本の国力低下を痛感させる。
 本書からこの20年の交渉の内幕を見ると、日本はコメのために何を引き換えにしてきたのか、考え込んでしまう。
    −−「ビジネス 亡国の密約―TPPはなぜ歪められたのか [著]山田優、石井勇人 [文]森健(ジャーナリスト)」、『朝日新聞』2016年07月10日(日)付。

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