覚え書:「音楽は人生を変えられる ベルリン・フィル芸術監督、サイモン・ラトル」、『朝日新聞』2016年10月13日(日)付。
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音楽は人生を変えられる ベルリン・フィル芸術監督、サイモン・ラトル
2016年10月13日
ニューヨークのメトロポリタン歌劇場のホール前に立つサイモン・ラトル=坂本真理氏撮影
15年にわたってベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いてきたサイモン・ラトル(61)が転機を迎えている。ベルリンの芸術監督の任期はあと2年で終了する一方、2017年からは故郷の英国でロンドン交響楽団(LSO)の音楽監督に就任する。メトロポリタン歌劇場(MET)の「トリスタンとイゾルデ」の指揮に合わせて訪れたニューヨークで、新天地への抱負や、クラシック音楽の可能性について、マエストロに思いを聞いた。
ベルリン・フィルは団員たちが投票で運営する「民主的」な楽団。個性豊かなメンバーたちをまとめることは必ずしも容易でなく、「猫の集団を率いることに似ている」とラトルは笑う。「ただ、驚異的なエネルギーと熱意がある。一つの方向に向かって動き始めると、素晴らしい仕事ができる」とも強調する。
■映像配信を導入
ベルリンでは演奏曲目のレパートリーを広げただけでなく、音楽教育への取り組みや、深夜のコンサートなどの新しい試みをいくつも導入した。中でも特徴的なのはコンサート映像を配信する「デジタル・コンサートホール」。09年から始め、今では代表的な事業だ。
ラトルは、これも団員からの提案だったからうまくいったと明かす。「私から押しつけたら、『正気か』と言われただろう。でも、すぐに採算が合わなくても、やがて報われると理解する視点が団員にあった」。結果として、ベルリンの演奏は世界中に広まっている。「テクノロジーが音楽の可能性を広げた例だ。今でも生演奏が理想だが、デジタルも環境が整えば素晴らしい体験ができる。特に、集団で体験できると力強い」とラトルは話す。
古くからの知人が多いLSOでは何を手がけるのか。「ベルリンは常に過去や伝統を意識しているが、ロンドンは将来について考えている楽団。どんな新しいことができるのか、話し合いたい」と抱負を語る。
特に意識するのは音楽教育の分野。「METのような楽団でも、満員にするのに苦労するのは音楽教育が十分でない結果だ。英国でも学校で音楽教育の機会が失われている」と懸念する。LSOでは既に、子供向けのオペラも企画しているが、若い世代に近づくためには、より積極的な姿勢を取りたいと考える。
■「人々を癒やす」
その理由は「音楽は人生を変えられる」という信念に基づいている。ベルリンでは世界中から集まる楽団で指揮し、チェコ出身の妻と一緒に暮らすラトルは祖国が内向きになり、欧州連合(EU)からの離脱を決めたことが「狂気にしか映らない」と語る。「でも、困難な状況の中で人々を癒やし、結びつけるのは音楽の役割だ。英国ではそれがますます必要とされるだろう」という。
ラトル指揮の「トリスタンとイゾルデ」はMETライブビューイング作品として、11月12〜18日に日本各地で公開される。マリウシュ・トレリンスキの演出についてラトルは「彼は映画の世界出身で、キネマティックな舞台。映画館でも魅力が伝わりやすい作品となった」と話す。詳細は松竹のホームページ(http://www.shochiku.co.jp/met/別ウインドウで開きます)で。(ニューヨーク=中井大助)
−−「音楽は人生を変えられる ベルリン・フィル芸術監督、サイモン・ラトル」、『朝日新聞』2016年10月13日(日)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S12604653.html