覚え書:「著者に会いたい 空也十番勝負 青春篇―声なき蝉(上・下) 佐伯泰英さん [文]板垣麻衣子」、『朝日新聞』2017年02月05日(日)付。

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著者に会いたい
空也十番勝負 青春篇―声なき蝉(上・下) 佐伯泰英さん
[文]板垣麻衣子  [掲載]2017年02月05日

代表作『居眠り磐音』の続編『声なき蝉』を出した佐伯泰英さん=東京都渋谷区の佐伯事務所
 
■自らのルーツに思いを込め

 昨年、51巻で完結した人気シリーズ「居眠り磐音(いわね) 江戸双紙(ぞうし)」。続きを望むファンの声に背中を押され、続編を届けた。新シリーズは、磐音の息子で、江戸の親元を離れて剣客修行に出る16歳の空也が主人公。本作では、空也が自らの名を捨て、無言の行を課し、異境の地・薩摩に密入国しようとする。
 月1作という創作ペースで、200作以上を世に送り出してきた熟練作家が「こんなに悪戦苦闘したのは初めて」と告白する。舞台に選んだのは九州南部。そこには、あまり明かすことのなかった自身のルーツが隠れている。
 執筆前、熊本と鹿児島の県境に取材旅行に出掛けた。ある峠に立ったとき、10代の頃に亡くした父の故郷が近いことに気がついた。北九州市で育った幼い頃、夏休みになると五つ上の姉に手を引かれ、電車を乗り継いで通った祖母の家。おなかいっぱい食べた白飯は、食料の乏しい戦後にあってひとときの幸福な記憶だ。大学進学で上京して以来、振り返ることがなかった過去がよみがえり、「心の中で、あちゃーって」。
 峠を駆け回る主人公を描きながら、記憶にないはずの父の少年時代の姿が重なった。
 写真家などを経て40代で作家デビューし、売れっ子になったのは還暦間近。いまだ執筆意欲が衰えないのは、長い下積み時代があるからだ。「人生、脂がのる時期は人それぞれ。僕の場合は60代からだった」。現在、5シリーズが進行中だ。
 仕事場のある熱海で、自己管理を徹底した執筆生活を送る。「能天気に作家でござい、の時代じゃない。自分の本を手にとってもらえるためにチャレンジを続けたい」
    ◇
 双葉文庫・各700円
    −−「著者に会いたい 空也十番勝負 青春篇―声なき蝉(上・下) 佐伯泰英さん [文]板垣麻衣子」、『朝日新聞』2017年02月05日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2017020500012.html


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