覚え書:「科学の扉 賞味期間を延ばせ 食品ロス減へ、製造方法を工夫」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。

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科学の扉 賞味期間を延ばせ 食品ロス減へ、製造方法を工夫
2016年10月16日

 本来なら食べられるのに多くの食品が捨てられている。そうした「食品ロス」を減らそうと、食品メーカーは、製造方法の見直しや容器を改良するなど様々な工夫をこらし、賞味期間や鮮度を長く保とうとしている。

 「マヨネーズの改良の歴史は、『酸素との戦い』です」。キユーピー研究開発本部の若見俊介さんはいう。物質が酸素と反応する「酸化」が進むと風味が悪くなり、おいしさが低下するからだ。

 キユーピーは、製造する際に酸素をできる限り除くことで賞味期間を延ばしてきた。14年前は7カ月間だったが、いまは1年間だ。

 注目したのは、原材料にもともと含まれている酸素だ。マヨネーズの主な原材料は、タマゴと酢、植物油。植物油には水中の5倍に上る酸素が含まれているという。原材料をミキサーで混ぜる前の植物油に窒素を吹き込み、酸素をできるだけ取り除く方法を開発。この製法を2002年にとり入れたことで、7カ月間の賞味期間を10カ月間にすることができた。

 さらに延ばそうと、製造機器や配管、製品を容器へ入れる際など、製造工程で材料や製品が酸素に触れるのをなるべく減らした。その結果今年、さらに賞味期間を2カ月延ばして1年間になった。

 牛乳も製造工程の見直しで、賞味期間が延びている。各メーカーが採り入れているのが「ESL製法」だ。ESLは、「Extended Shelf Life」の略で、賞味期間の延長という意味で使われている。牛乳を容器へ入れるのを、除菌したきれいな空気の部屋で行うなど、徹底した衛生管理のもとで製品化する。通常の製法による牛乳の賞味期間は7日間ほどだが、ESL製法では10〜14日間に延びる。

 ■容器改良で長持ち

 容器を改良することで、おいしさを保つ技術も進む。

 賞味期間は、開封前の食品のおいしさを保つ期間をさす。だが、ヤマサ醤油(しょうゆ)は、開封後も鮮度を長く保てるよう容器を工夫した。しょうゆが空気に触れて酸化するのを防ぐ。ペットボトル入りしょうゆは、開栓後1カ月間を目安に使い切ることを勧めているが、空気に触れない容器は「開けても180日鮮度キープ」をうたう。

 容器はベンチャー企業「悠心」が開発した。しょうゆが好きな二瀬克規社長が、「しょうゆは出せても、外からは空気が入らない容器を作れないか」と考えた。

 容器本体と注ぎ口は薄いフィルムでできている。容器を傾けてしょうゆを注ごうとすると、水圧で注ぎ口が自然に開く。注ぎ終わって圧力が小さくなると、注ぎ口のフィルムが閉じてしょうゆが隙間に満たされて弁の役割を果たし、空気を通さない。真空になるとしょうゆが出なくなるので、酸化に影響しない気体の窒素も容器に入れている。

 ミツカンは今年、納豆の一部商品の賞味期間を9〜11日間から15日間に延ばした。

 容器の密閉性を高め、有害な微生物などが入りにくくし品質劣化を防ぐようにした。ふたと容器は一枚の発泡スチロールでつながっている。これまでは折れる部分にくぼみをつけて折り曲げやすくしていたため、容器とふたの折り返し部分に三角の隙間があった。改良後は、ミシン目のような切れ目を入れ、折れる部分の内側はくぼみをなくして平らにして隙間をなくした。通気のためにふたに開けていた小さな穴もなくした。

 さらに、時間がたつとじゃりじゃりした食感の原因になる、チロシンというアミノ酸の増加を抑える製法も導入。賞味期間が延びたことで、流通段階で出ていた「ロス率」が半減したという。

 ■小売り慣習も課題

 食品の期限を示す表示は「消費期限」と「賞味期限」がある。消費期限は、製造後5日程度までに安全でなくなる可能性がある食品につく。一方、賞味期限はおいしく食べられる期限を示し、過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではない。だが、店頭での販売期間が賞味期限に左右される業界の慣習「3分の1ルール」がある。

 製造から賞味期限までの最初の3分の1の期間が小売り店への納品期限で、それまでに店に届かなければ廃棄されたりメーカーへ返されてしまう。次の3分の1が販売期間で最後の3分の1の期間が残っていても、店頭から撤去されてしまう。一部店舗で販売期間を長くする動きもあるが、全体には広がっていない。食品メーカーによる賞味期間延長は、食品ロスを減らすことにつながる。

 (神田明美

 <生産の3分の1が廃棄> 国連食糧農業機関の2011年の調査によると、世界全体では、生産される食料の3分の1にあたる13億トンが毎年捨てられている。

 日本では13年度の推計で年632万トンが廃棄されている。国民1人1日あたりにすると茶わん1杯分のご飯に相当する。家庭からの廃棄が全体の半分近くを占めている。製造や流通の段階だけでなく、家庭でも賞味期限が近いものや、期限が過ぎてすぐのものが捨てられている。ほかに、食べ残し、野菜や果物で食べられる部分も過剰に切り取って捨てているケースがある。

 ◇「科学の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「身近なIoT」の予定です。ご意見、ご要望はkagaku@asahi.comメールするへ。
    −−「科学の扉 賞味期間を延ばせ 食品ロス減へ、製造方法を工夫」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12610061.html





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