覚え書:「大学の知、軍事研究に流入 日本学術会議、線引き議論中」、『朝日新聞』2016年12月15日(木)付。

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大学の知、軍事研究に流入 日本学術会議、線引き議論中
2016年12月15日 

 大学などが行う学術研究と、防衛省や防衛産業による軍事研究をめぐる議論が日本学術会議で続いている。両者は戦後、研究費の出どころを区別するなどして「すみ分け」をしてきた。だが、垣根は10年ほど前から崩れ始め、大学の「知」は様々な経路で軍事研究に流れ込みつつある。
 ■軍用機へ活用想定/ベンチャー経由
 安倍政権がイノベーション政策の柱にする「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」。「自動運転」「省エネ技術」など11分野の研究を産業振興につなげる。2014年に始まり、5年で1500億円以上を投じる。
 その一つ「革新的構造材料」は、世界の航空機エンジン市場を独占するGEなど3社と肩を並べる技術をめざし、東京大、物質・材料研究機構など77機関が参加。部品加工の模擬装置によるデータ蓄積などを進めている。
 「成果の活用の可能性として航空機を想定している。軽量、高強度の機体材料やエンジンの耐熱材料などに注目している」
 14年にあったプログラムの会議で防衛省の担当者は、大学などが開発する技術を軍用機の性能向上に活用する可能性を示した。
 産業側の代表的な参加機関は、戦闘機開発も手がける石川島播磨重工業三菱重工業。運営する科学技術振興機構の担当者は「(防衛利用を含め)特許などの成果をどう活用するかは各企業が判断できる」と話す。
 SIPは内閣府が予算をつける。「民生官庁」の文部科学省経済産業省と、防衛省の相乗りに道を開いた形だ。
 一方、大学発ベンチャーを経由する例もある。関東地方の国立大の教授が取締役を務めるベンチャーは一昨年から、エンジンの効率を上げる模擬計算を、防衛省から年約200万円で受託してきた。
 きっかけは大学の研究室で始めた防衛省との「技術交流」。04年度に始まった制度で、大学や国の研究所と研究情報を交換する。「交流2年目に、具体的に仕事を頼みたいと持ちかけられた」と話す。技術交流と違い、お金のやりとりがあるので大学では難しく、ベンチャーで引き受けることにしたという。
 大学発ベンチャーは全国に約1700社。だが、各大学は企業活動を把握する立場になく、防衛省との協力の実態は不明だ。
 防衛省は昨年度、大学などに研究費を支給する「安全保障技術研究推進制度」を始めた。学術会議の議論では、研究成果の公開性への影響が焦点となった。防衛省は「原則公開」とするが、事前承諾が前提で、研究の進行管理も防衛省が行うため、機密化を懸念する声もある。
 (嘉幡久敬)
 ■「学術と防衛、切り分けるべきだ」 JAXA川口淳一郎シニアフェロー
 「垣根」が最初に大きく崩れたのは宇宙分野だ。宇宙の軍事利用に道を開く宇宙基本法が08年に施行され、宇宙航空研究開発機構JAXA)と防衛省の技術交流が拡大した。
 宇宙分野は軍事と共通の技術が扱われることが多い。例えば小惑星探査機「はやぶさ」の耐熱シールドは、弾道ミサイル技術に通じる。その開発を、学術研究のプロジェクトとして率いたJAXA川口淳一郎シニアフェローに、学術と軍事に関する個人の見解を聞いた。
 研究は目的を持った取り組みだから、防衛力強化をめざす政府がそのための研究助成を行うことを否定するつもりはない。だが、それは研究者の創意に基づく学術研究とは違う。研究者は社会、国家、地球が安定し、豊かさを享受できる未来を目指すべきだ。私はそれをフロンティアと呼ぶ。
 日本の宇宙開発では、学術研究と防衛研究は区別されてきた。防衛と切り離して惑星や月の探査機を打ち上げられる国は他にない。成果を世界に広く普及させてきた歴史は世界に誇れるものだ。
 だが、宇宙基本法の施行以来、学術研究の場といえども研究情報が機密保護の管理下に置かれつつある。大学などが防衛省の資金で行う研究もいずれは機密扱いになっていくだろう。
 学術と防衛は切り分けるべきだ。学術の主眼は国を守ることにではなく、価値ある国を作ることにある。守る価値がない国になっては元も子もない。
 (談)
    −−「大学の知、軍事研究に流入 日本学術会議、線引き議論中」、『朝日新聞』2016年12月15日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12706290.html





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