覚え書:「書評:北斎まんだら 梶よう子 著」、『東京新聞』2017年04月02日(日)付。

Resize5722


        • -

北斎まんだら 梶よう子 著

2017年4月2日

◆独創の絵師は訴える
[評者]木村行伸=文芸評論家
 歌川派の活動を中心に江戸浮世絵の興亡を描き、直木賞候補にもなった歴史大作『ヨイ豊』。その作者が、浮世絵の巨匠、葛飾北斎に挑んだ最新作である。
 舞台は天保時代。信州小布施の豪商、高井家の惣領(そうりょう)息子・三九郎(のちの高井鴻山(こうざん))が老境の北斎に入門を乞うところから物語ははじまる。三九郎と北斎の弟子、池田善次郎(渓斎英泉(けいさいえいせん))との滑稽譚(こっけいたん)のような交流や、北斎と娘お栄(応為(おうい))との信頼感に満ちた生活風景、三九郎とお栄との微妙な恋模様、さらには枕絵の宿す人間的な魅力等々、本篇は心和む明るさで絵師たちの日々を追っている。
 その一方で提示されるのが「贋作(がんさく)」の問題だ。『冨嶽三十六景』や『北斎漫画』などで独自の画風を確立した北斎。その影響力は「偽絵」をも発生させる。作者は、絵師らの心情を斟酌(しんしゃく)しながら、その起因を追及し、技術の向上のための模倣(臨画)と、利己主義的盗作の根本的な違いを明確にしているのだ。
 北斎は叫ぶ、「北斎は、おれひとりで十分だ」と。彼の嘆きは時代を超えて様々な人々に唱えられるものだ。例えば今日、日本の絵画文化はデジタル技術によって飛躍的発展を遂げている。当然、偽作も。この双方の不変的関係を踏まえ、本作は北斎の言葉で、独創性の意義を誠実に訴えているのである。まさしく芸術とは、作家の人生そのものなのだから。
 (講談社・1836円)
 <かじ・ようこ> 作家。著書『ことり屋おけい探鳥双紙』『葵の月』など。
◆もう1冊 
 梶よう子著『一朝の夢』(文春文庫)。思いがけず幕末の政情に巻き込まれることになった同心を描いたデビュー作。
    −−「書評:北斎まんだら 梶よう子 著」、『東京新聞』2017年04月02日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017040202000189.html



Resize4938




北斎まんだら
北斎まんだら
posted with amazlet at 17.04.27
梶 よう子
講談社
売り上げランキング: 37,758