覚え書:「我々はどこから来て、どこへ向かうのか:4)国家に何を期待してる?」、『朝日新聞』2017年01月05日(木)付。

Resize5725

        • -

我々はどこから来て、どこへ向かうのか:4)国家に何を期待してる?
2017年1月5日

元日、多くの家族が初詣に訪れた。次世代の社会をどう支えるか、国家の役割も問い直されている=東京・明治神宮、林敏行撮影

 ■vol.4 国家

 グローバル化が進むと国家の影響力は低下すると言われてきた。けれど逆に最近、国家なるものの存在感が高まっている気がする。国家の存在意義。問い直されているのだろうか。(編集委員塩倉裕

 「保育園落ちた日本死ね!!!」

 そう題する文章がネットの匿名ブログに書き込まれた。昨ログイン前の続き年2月のことだ。

 働き続けたいのに子どもを保育園に入れられなかったので会社を辞めねばならなくなってしまった――。ブログ主は苦境を訴え、ネット空間に怒りをぶつけていた。「何なんだよ日本」「一億総活躍社会じゃねーのかよ」「国が子供産ませないでどうすんだよ」「保育園増やせよ」……。

 子育て中の人々を中心に、またたく間に共感の輪が広がった。私も同じだと訴え出る母親たちの運動も注目を浴び、政府は待機児童問題への緊急対策を発表せざるをえなくなった。

 「日本死ね」という題には批判も出た。国家を全否定したように読める表現だったからだ。

 表現の裏側にある「日本よ私を守ってくれ」というメッセージにこそ注目すべきではないか。そう発言したのは批評家の東浩紀氏だ。昨年12月、東京都内での公開座談会で語った。

    *

 ブログ主はメディアに姿を登場させていない。東京在住の子育て中の女性と名乗っている。ネットを通じて対面取材を申し込んだが断られた。メールでなら質問に答えてくれるという。本当に子育て中なのかなどは確認できなかったが、現象に火を付けた発信者に尋ねたいことがあった。

 怒りの矛先はなぜ「日本」だったのだろう。

 「なんで日本という言葉を使ったのかは分かりません」という返信がブログ主から届いた。「たまたまあの時に浮かんだ言葉が日本だったのだと思います」

 働く人のために保育園を作ることは国家の使命だと考えたのか。回答は、国家の存在意義をイメージして生活したことが正直ないので分かりません、だった。「目の前の生活を考えるだけで精いっぱいです」

 昨秋、ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝った。明日に不安を抱く人々が、移民から職を守ると約束する国家リーダーを選んだ、と解説された。6月に英国の欧州連合(EU)からの離脱が決まった際も、従来の生活を維持したい人々が“自国民を守る政治”を望んだ、と語られた。

 「国が安心して子供産んで大丈夫です!って何で言ってくれないんだろう」。ブログ主は3月、ツイッターにこう記していた。

 暮らしを転落から保護する役割。国家への期待が改めて高まっているのか。

 

 (3面に続く)
    −−「我々はどこから来て、どこへ向かうのか:4)国家に何を期待してる?」、『朝日新聞』2017年01月05日(木)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12733543.html



Resize5721

Resize4941