覚え書:「ローカルブックストアである [著]大井実 本屋、はじめました [著]辻山良雄 [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年04月09日(日)付。

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ローカルブックストアである [著]大井実 本屋、はじめました [著]辻山良雄
[評者]市田隆(本社編集委員)
[掲載]2017年04月09日
[ジャンル]人文
 
■本と町と人を結ぶきっかけに
 
 この2冊は、町の本屋が消えていく受難の時代に、福岡と東京で小さな本屋を開いた2人の店主がその道のりを振り返った記録だ。
 「ブックスキューブリック」の大井実は37歳の時、生まれ故郷の福岡に戻った。本好きが高じて本屋を開きたいと夢を抱き、書店でアルバイトを始めた。バイト先の店長は面接時「小さな本屋がばたばたと潰れている」「本屋になりたいなんて馬鹿なことはおやめなさい」と忠告した。2年後の2001年に開業したが、乏しい書店経験での開業は「前代未聞」という。
 しかし、大井がそれにたじろいだ気配はない。「小さな総合書店」として専門書と一般書との「中間くらいの領域から面白い本を丹念に拾ってくる」書棚作りを生き生きとつづる。また、福岡の他店と協力し、文庫の共同販売やトークイベントを組み合わせたフェスティバル「ブックオカ」を仕掛けた。「本と町と人が結びつくきっかけ作り」は各地に影響を与え広がった。
 逆境に立ち向かうビジネス書としての価値もあるが、大井に肩ひじ張った気負いはない。自分が好きな道を歩き続けることに重きを置き、ほどよく肩の力が抜けた生き方に惹(ひ)かれた。趣味人と商売人のバランスがちょうどいいのだ。
 東京・荻窪で本屋「Title」を昨年開業した辻山良雄も、書店員を長年続けた後に「さまざまな人が行き交い新しい知識や考え方を持って帰ることのできるような本屋」作りを目指した。私が訪ねてみると、大型店では見つけにくい面白そうな本が狭い店内にあふれていた。トークイベントでは「一つの場所に本を中心として人が集まる」温かな時間が流れていた。『本屋、はじめました』にはその空間作りへの思いが濃厚に詰まっている。
 いずれも苦労話は控えめにして夢の実現を楽しそうにつづる本屋さんの本。何かにつまずいて落ち込んでいる時、元気をもらいたい人に薦めたい。
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 おおい・みのる 61年生まれ。01年に福岡で書店開業
 つじやま・よしお 72年生まれ。16年に東京で書店開業。
    −−「ローカルブックストアである [著]大井実 本屋、はじめました [著]辻山良雄 [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年04月09日(日)付。

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