覚え書:「宮柊二『山西省』論 [著]佐藤通雅 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2017年06月11日(日)付。

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宮柊二山西省』論 [著]佐藤通雅
[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)
[掲載]2017年06月11日

 日中戦争下で、山西省は象徴的な意味をもつ。激しい戦闘と軍事上は「戦争」の残酷さを、政治上も戦後は軍閥閻錫山(えんしゃくざん)に組みこまれ日本兵国共内戦に巻きこまれた。歌人宮柊二は、この山西省で「一兵」として4年間戦った。
 その宮の歌集『山西省』は戦後に編まれたが、私も昭和史探求の一環としてこの歌集にふれ、その写実性に驚いた。本書の著者は歌人の先達の作品としてこの歌集を読んだわけだが、戦闘の非日常性、非人間性にどのような表現(言葉)を重ね合わせることができるのかという視点で、一首ずつの世界を見る。
 著者はこの歌集の「昭和十五年」の章の「おそらくは知らるるなけむ一兵の生きの有様(ありざま)をまつぶさに遂げむ」を到達点と見る。これを昭和十三年来の客観的手法から一転しての「述志詠」と言い、この歌を詠む宮柊二に迫っていく。この歌の中に日本文学・世界文学への通路があるとの分析が本書の主題だ。

 ※本の表紙の画像は宮柊二著『歌集・山西省』のものです
    −−「宮柊二山西省』論 [著]佐藤通雅 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2017年06月11日(日)付。

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宮柊二『山西省』論
宮柊二『山西省』論
posted with amazlet at 17.07.08
佐藤通雅
柊書房