覚え書:「【書く人】震災後の寄る辺なさ 『茄子の輝き』作家・滝口悠生(ゆうしょう)さん(34)」、『東京新聞』2017年07月23日(日)付。

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【書く人】

震災後の寄る辺なさ 『茄子の輝き』作家・滝口悠生(ゆうしょう)さん(34)

2017年7月23日
 
 東京都内の小さな会社で働く三十代の男性を主人公にした連作短編集。別れた妻のことを忘れられない男の日常が、東日本大震災から間もない時期を舞台に描かれる。
 「震災から少したったころの、東京で働いている人たちの何とも寄る辺ない感じを書きたかった。この小説の職場と職種はまったく違いますが、雰囲気が似ている小さな会社で私も働いていましたから」
 主人公の会社は、震災の影響とも考えられる経営悪化で倒産に追い込まれていく。一人で家にいると不安になったり、「自分たちの人生にも、いつ何があってもおかしくない」と思ったり。震災後にそれぞれの気持ちを抱えながら過ごす人たちの、静かだけれども中身の濃い日常が描かれる。
 作家デビューしたのは震災から半年が過ぎた二〇一一年秋。「東北にいたわけではありませんが、僕自身にとって大きな出来事でした。作家になってから、すべて震災があった後の時間のことを書いているので、何を書いても、どこかで震災に触れないと不自然になってしまうんです」
 主人公の過去の日記の文章を小説の中に入れ込むことで、語りの構造を重層的にした。自身も日記を参加者に書いてもらうワークショップを各地で開いている。
 「時間の順序や形にこだわらずに日記を書いてもらいます。ルールを緩くすることで、書けることはすごく増える。ちょっと書いておくだけで、情報喚起力が強いインデックスになる。おおげさに言えば、その人の人生の、ある一日のありようが大きく変化しうるんです。自分のものの見方や意識の使い方にも自覚的になり、道を歩いても、それまで見えていなかったものが見えるようになる。すてきなことだと思います」
 埼玉県の高校を卒業後、アルバイトをしていたが、小説を書こうと二十三歳で大学に入った。三十三歳の時に「死んでいない者」で芥川賞を受賞した。「読むことによってその人の世界が変わるような小説を書きたい。入れ替わるように変わるという意味ではありません。その人にとって世の中がより、複雑になるといいなと思っています」
 今回は連作という形式に初めて挑んだ。「これまでよりも長いものを書く」というのが次の目標だ。
 新潮社・一七二八円。 (石井敬)
    −−「【書く人】震災後の寄る辺なさ 『茄子の輝き』作家・滝口悠生(ゆうしょう)さん(34)」、『東京新聞』2017年07月23日(日)付。

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