覚え書:「書評:ひとりぼっちの辞典 勢古浩爾 著」、『東京新聞』2017年07月23日(日)付。

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ひとりぼっちの辞典 勢古浩爾 著

2017年7月23日


◆人の基本と言い切る
[評者]正津勉=詩人
 著者は『まれに見るバカ』『定年後のリアル』シリーズなどで人気のライター。つねに市井の一市民としての目線を大切にする。「ふつうの人」の幅でものを言うことを心にしている。じっさい長年の会社勤めの退職後に執筆にいそしむ。そこにこの人の好もしさがある。
 本書は辞典形式のエッセイで、しがなく辛(つら)い勤め人として身につけた考え方や処世を軸として、「ひとり」について考察する。「まえがき」にのべる。「自分の愉(たの)しみを見つけ、これが自分だと輪郭を明確にし、これでいいと自得すること(中略)ごくふつうの顔をして自由に『ひとり』を生きていけばいいのである。『ひとり』は人間の基本なんだから」
 いったい、このように言い切る強さはどこからくるのか。このことに関わって、この辞典にただ一つの人名項目がある。「吉本隆明 (1)わたしが愛したただひとりの知識人。(2)ふつうが一番偉い、ひとりが一番強いということを教えてくれた恩人。孤軍として生きた」
 ここに著者の立ち位置が簡潔に語られている。「あ」から「ん」まで、どの項目を開いても「ふつうが一番」「ひとりが一番」の太い芯が貫かれている。「人はしても自分はしない、人がしなくても自分はする」を格律(自分だけの原則)とする。右へ倣えの「SNS」全盛に逆行する痛快な本だ。「ひとり」万歳!
(清流出版・1620円)
<せこ・こうじ> 1947年生まれ。文筆家。著書『ウソつきの国』など。
◆もう1冊 
 吉本隆明著『ひきこもれ』(だいわ文庫)。コミュニケーションを過大視せず、孤独に過ごす時間の価値と意味を考察。
    −−「書評:ひとりぼっちの辞典 勢古浩爾 著」、『東京新聞』2017年07月23日(日)付。

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