覚え書:「危機の20年 北田暁大が聞く 第12回 ゲスト・萱野稔人さん 論壇、言論と政治(その2止)」、『毎日新聞』2017年03月25日(土)付。

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危機の20年

北田暁大が聞く 第12回 ゲスト・萱野稔人さん 論壇、言論と政治(その2止)

毎日新聞2017年3月25日 東京朝刊
 
安倍政権の支持率まで善しあしで語る「知識人」
 北田 00年代半ばのバックラッシュ=注<4>=も、割と生活に余裕があり、相対的に恵まれている男性たちが担い手だった。ところが左派論者は「非モテ低所得者男性」が主役だと信じた。

 萱野 「非合理で無知蒙昧(もうまい)な社会的に低位の人たちのせい」と考えるのは、嫌いな対象をおとしめたい欲望が働くからですね。

 北田 最近、ある研究者が、トランプ支持者は「普通の人」、「かれらに届く声を」と言っていてびっくりした。何を今更。昔からそう。何が普通かを含めて、普通の人がなぜそう考えるのかを考えるのが、知識人の仕事なのに。

 萱野 メディアは「トランプ個人がいかにバカか」ばかり報じる。それもいいけど、米国外交や経済の転換期に、彼が選ばれた合理性を論じるべきですよ。

 北田 日本の左派には、サンダースに「米国に社会民主主義政権ができるかも」と夢を見た人たちもいた。実際の支持層は、トランプとそれなりに被(かぶ)っていた。2人の支持に通底するものこそが重要です。天皇退位問題では、左派が天皇を反安倍の旗印にしている。左派が、たかだか一人の首相を倒したいから天皇を利用するなんて絶対にダメですよ。

 萱野 目的が手段を正当化すると信じているんでしょう。そうではなく、冷静に物事を認識して、最悪の結果を避けながら物事を進めるために積み重ねられてきた知恵の蓄積こそ大切にすべきです。人間、特に自分が考えることなんて、本当にちっぽけなんだから、それでは勝てない。

 北田 自分の思いから出発していいけれど、本気で変えたければ、1回はしっかりと構造を分析してから自らに戻らないと。地味で、留飲は下がらない作業ですが。

 萱野 やはり、私たちの大きな方向性は同じですね。私はイライラが積もりすぎて、右っぽいことばかり言うようになったと思われがちですが(笑い)。

注<1>=1960年代末に西側先進国などで広がった若者らの新しい左翼運動の波。

注<2>=前者は文化事象研究、後者は植民地主義帝国主義の文化や歴史研究。

注<3>=マルクス主義用語で経済以外の領域。経済は「下部構造」。

注<4>=ここでは男女共同参画などを極端なレッテル貼りで攻撃した動きを指す。

 ■対談の背景

 2000年代後半、北田さんや萱野さん、中島岳志・現東工大教授(75年生)、白井聡・現京都精華大専任講師(77年生)らが「若手論壇」と名指された。今回はまるで、その「同窓生対談」だが、左派色の鮮明な北田さんと、テレビで「保守的」発言の目立つ萱野さんでは、表面的に大きく変わった。だが、国民国家を言葉で否定しただけでは意味がないとして、正面から関わりつつ問題化するスタンスは、10年前と同じだと確認できた対談だった。【鈴木英生】=「危機の20年」は今回で終了

 ■人物略歴

きただ・あきひろ
 1971年神奈川県生まれ。東京大大学院博士課程退学。博士(社会情報学)。筑波大講師など経て現職。共著『リベラル再起動のために』共編著『社会の芸術/芸術という社会』など。
    −−「危機の20年 北田暁大が聞く 第12回 ゲスト・萱野稔人さん 論壇、言論と政治(その2止)」、『毎日新聞』2017年03月25日(土)付。

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