覚え書:「書評:宗麟の海 安部龍太郎 著」、『東京新聞』2017年11月05日(日)付。

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宗麟の海 安部龍太郎 著

2017年11月5日
 
◆「今、ここ」越える心の旅路
[評者]島内景二=電気通信大教授
 この小説では、キリシタン大名大友宗麟(おおともそうりん)の十八歳から四十九歳まで、約三十年の心の旅路が語られる。宗麟の歩みは、作家デビュー三十周年を迎えた安部龍太郎の歩みと重なる。

 これまで安部は、現実を突き抜けて「永遠」に至ろうとする男たちを描いてきた。織田信長細川幽斎、芸術家の長谷川等伯、さらには無名の庶民の「心の渇き」が、読者の心を打った。

 永遠を手にするには、まず「日本」の真実を知らねばならない。安部は、天皇制を核心に据えて、日本文化を再構築した。世界史の動向から中世日本だけでなく、近代日本の原点を見た。これが、「安部史観」である。

 だが、人は、世界認識を変えただけでは救われない。なぜならば、救いを求めているのは、心だからだ。ここに安部文学の三十年の苦闘があった。

 人間は、「今、ここ」を、生きる。宗麟は、室町幕府が滅亡し、信長が新しい時代を切り拓(ひら)いた時代を、九州の戦国大名として生き、死んだ。

 だが宗麟は、ザビエルたち宣教師の教えと、海外貿易の促進によって、「今、ここ」の限界を乗り越えた。「ここ」を越える道は、海。銀と鉄砲が、日本と海外とを結びつけた。「今」を越える道は、ザビエルの教え。

 たとえ世界の全部を手に入れても、心が満たされなければ、人は不幸である。権力も富も、人を幸福にしない。

 はてしない戦いで、憎悪と不信が渦巻く世界の中で、何としても、本当の自分と巡り合いたい。志を共有し、自分と一緒に苦しんでくれる人々との「絆」を、大切にしたい。

 最終章「王の船出」で、ムジカ(賛美歌)と名づけた「心の王国」へと、宗麟は船出する。読者も、宗麟と共に旅立つ。幸福の国土の扉は、自分らしく生きたいと願う人々に開かれている。そここそ、私たちの未来である。

 歴史小説を読むのは、航海に似ている。熟練した船長・安部龍太郎と共に、現代史の未曾有の荒海へと、いざ。

(NHK出版・2052円)

<あべ・りゅうたろう> 1955年生まれ。作家。著書『維新の肖像』など。

◆もう1冊 
 安部龍太郎著『信長燃ゆ』(上)(下)(新潮文庫)。天下布武を推し進めた信長の生涯と悲劇を、朝廷と武家の対立を絡めて描いた歴史小説
    −−「書評:宗麟の海 安部龍太郎 著」、『東京新聞』2017年11月05日(日)付。

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東京新聞:宗麟の海 安部龍太郎 著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)








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