覚え書:「書評:オスマン帝国の崩壊 中東における第一次世界大戦 ユージン・ローガン 著」、『東京新聞』2017年11月05日(日)付。
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オスマン帝国の崩壊 中東における第一次世界大戦 ユージン・ローガン 著
2017年11月5日
◆連合国 ご都合主義の痕跡
[評者]宮田律=現代イスラム研究センター理事長
民族、宗教、ナショナリズムに起因する紛争や暴力が絶え間ないかのように発生する中東イスラム世界の国家秩序は、英国、フランスという第一次世界大戦に勝利した連合国、つまりヨーロッパ植民地主義勢力によってつくられた。その英仏と戦って敗れたオスマン帝国の側から描いた本書には第一次大戦への画期的な視点がある。
オスマン帝国はイスラム世界に号令をかけて英国など連合国に対する「ジハード(聖戦)」を唱え、それに対して英国も聖地メッカの太守であったシャリーフ・フサインを中心とする「アラブの反乱」を利用し、オスマン帝国を内から崩壊させようとした。オスマン帝国、英国ともに戦争の大義をイスラムに求めたが、この姿勢は現在も「イスラム国」の活動などに見られる。
第一次大戦中のオスマン帝国の戦いは、アジア太平洋戦争の日本軍のように悲壮感に満ちたものであった。前線はのび切り、食糧も敵軍から奪うような兵站(へいたん)のまったく十分ではない無謀な戦いが繰り返され、捕虜や国内マイノリティに対する虐待も行われた。
英国は戦争遂行の時々の都合でオスマン帝国領に関する矛盾する約束を結んだが、本書はヨーロッパのご都合主義によって生まれたパレスチナ問題やクルド人問題など、現在も中東の多くの人々を苦悩させている第一次大戦の「負の遺産」を詳細かつ、説得力をもって確認させる内容になっている。
ユダヤ人に民族郷土創設の約束をしたバルフォア宣言は、ちょうど今から百年前の一九一七年十一月に英国政府によって明らかにされたが、英国は植民地インドに至る途上にある戦略的に重要なスエズ運河を守るため、アラブ人より信頼が置けると考えたユダヤ人にパレスチナを支配させようとした。
本書のところどころで紹介される第一次大戦でのオスマン帝国の戦いに関する歴史的な画像資料は、内容の理解をより深めさせるものとなっている。
(白須英子訳、白水社・4860円)
<Eugene Rogan> 英国在住の歴史家。著書『アラブ500年史』など。
◆もう1冊
今井宏平著『トルコ現代史』(中公新書)。オスマン帝国の崩壊後に生まれたトルコ共和国。建国から現在まで百年の歩みをたどる。
−−「書評:オスマン帝国の崩壊 中東における第一次世界大戦 ユージン・ローガン 著」、『東京新聞』2017年11月05日(日)付。
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東京新聞:オスマン帝国の崩壊 中東における第一次世界大戦 ユージン・ローガン 著 :Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)