覚え書:「私の視点 戸籍公開 多様性否定し、差別を助長 尹チョジャ」、『朝日新聞』2017年08月10日(木)付。

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私の視点 戸籍公開 多様性否定し、差別を助長 尹チョジャ
2017年8月10日

 民進党代表の蓮舫さんが、台湾との「二重国籍」状態の解消を証明するためとして戸籍謄本の一部などを公開した。戸籍の公開は、出自と血統による差別を生む元凶となりかねない。どんな立場の人の戸籍も決して公開されてはならない。

 私は、韓国人の父と日本人の母の間に生まれた。当時の国籍法では、子どもは父の国籍では、子どもは父の国籍である韓国籍となる。私を日本国籍にしたかった両親は、婚姻届を出さず、母の婚外子として届けた。日本社会で多くの差別を受けた父は、韓国人であることを徹底的に隠し、私にも「隠せ」と言っていた。
 父は47歳で病死した。私は「父」を隠して生きてきたことを後悔した。そして自らのルーツを堂々と語れる社会にしたいと願い、日韓双方の文化的背景があることを積極的に評価する「ダブル」であることを明らかにした。それまでの日本姓ではなく、父の姓である「尹(ユン)」を名乗って教壇に立ち、裁判所から戸籍上も改姓が認められた。
 私は、外国にルーツがある子どもが多く棲む東京の公立小学校で教員を務めた。親が外国人であることを隠したり、自分を卑下したりする子どもも少なくはない。日本で生まれ、日本語しか知らなくても「ガイジン」と呼ばれ、差別されるからだ。
 蓮舫さんの「二重国籍」が問題視されたことで、子どもたちが外国につながる自らのルーツをマイナスにとらえたり、「攻撃される」と身を縮めたりすることを私は心配する。実際、学校ではそうした子どもへのいじめが横行しているからだ。
 私が住む川崎市は、歴史的経緯から在日コリアンが多く、多文化を誇る。行政は「共に生きる街」をめざして先進的な施策を進めてきた。しかし近年、「外国人出て行け」と叫ぶヘイトスピーチの標的にされ、マイノリティーの心に深刻な被害をもたらしている。二重国籍を問題視し「日本人であること」の証明を迫ることは、排外主義の風潮を強めることにはならないだろうか。
 国籍法改正で85年から子どもは、母の日本国籍を継承できるようになった。女性や子どもの権利が尊重された結果であり、二重国籍も増えてきた。国際結婚で生まれた子どもには、父母のルーツのどちらをも否定せずに、自分のアイデンティティーの可能性を切り開いて欲しい。二つのパスポートがあれば、僕留学や海外の親族との交流が容易になる。「ダブル」は文字通り複数文化を享受でき、体験の幅を広げるだろう。
 「他の国籍や血統を持つ人は、いつか日本を裏切るかもしれない」などと危険視して、外国人や国際結婚で生まれた人を排除してはならない。多様性を生かしあい、ちがいを豊かさに変えていく。そんな多文化共生社会をめざしていきたい。
    −−「私の視点 戸籍公開 多様性否定し、差別を助長 尹チョジャ」、『朝日新聞』2017年08月10日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S13080271.html





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