覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 培ってきた感性で独自の交流を 壇蜜さん」、『朝日新聞』2018年01月14日(日)付。



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悩んで読むか、読んで悩むか 培ってきた感性で独自の交流を 壇蜜さん

悩んで読むか、読んで悩むか
培ってきた感性で独自の交流を 壇蜜さん
2018年01月14日

80年生まれ。テレビ・ラジオなどで活躍。エッセーや初の短編小説を収めた『泣くなら、ひとり』など。

■相談 男友達ができない

 同性の友達がなかなかできません。姉が2人と女性に囲まれて育ちました。病気がちで、スポーツなどが満足にできず、女性が好きそうな事柄ばかりに関心を持ってしまいます。飲み会などで男子のノリに合わないなあと思うことも多いです。年をとると同性の友人は大切で、つながりも特別だと本などで読みます。男性の友人ができるコツを教えてください。
 (兵庫県、学生 男性・25歳)

■今週は壇蜜さんが回答します

 相談者さまには、森下裕美少年アシベ』をおすすめします。主人公の小学生アシベは、父の仕事の事情でこれまで慣れ親しんだ町を離れ、転校生として新たな町にやってきます。ヤンチャで天真爛漫(らんまん)なアシベに周囲はおっかなびっくりですが、徐々に皆が仲良くなっていく物語です。
 ストーリー中ではアシベがアザラシの赤ん坊「ゴマちゃん」と偶然出会い家族として迎えたり、運動が苦手な同級生を励ましたり、いじめっ子を懐柔したりと、新しい生活に馴染(なじ)んでいくまでの過程が詳細に描かれています。その他にもアシベの祖父が社長を務める会社の人間模様や、アシベの家の近くに店を構える中国料理店の営業風景……どこか社会的、国際的な生活観察漫画ですので、ぜひ「こういう世界もあるのか」と参考にしていただきたいのです。
 女性に囲まれて育ち、美術や音楽を愛する相談者さまのお姿は、確かに同性の方々から見ると近寄りがたいかもしれません。繊細そうだな、誘っても断られるかな……と、遠慮してしまいそうになるのは、男性も女性も同じこと。相談者さまは同性の仲間が出来にくい理由も、ご自分で分析され分かっていらっしゃるようですので、なおさら自己完結感があるのでしょう。これは同世代の方々からすれば羨(うらや)ましいことだと思います。20代半ばといえば、多くの方々が「自分はこれからどういう大人になり、社会と結びついていくのか」と腰を据えて考え始める時期だと思います。しばらくは周囲と己を比べ、非力さを嘆いたり批判に没頭したりと不安定な考えにのみ込まれがちになる、大人になってからの思春期だと私は思っています。だからこそ、焦って「同性の友人がいたほうがいい」という一般論を相談者さまのこれまで培ってきた感性に被(かぶ)せて落ち込まないでいただきたいのです。
 相談者さまは「相談者さま独自の交流」を体得するために前を向いたばかりです。無理をせず、アシベのようにマイペースで大(おお)らかな姿勢でいれば、慕う方々がきっと現れます。
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 次回は作家の山本一力さんが答えます。
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 ■悩み募集
住所、氏名、年齢、職業、電話番号を明記し、1月末までに郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。壇蜜さんと山本さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、斎藤環精神科医)、穂村弘歌人)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、吉田伸子(書評家)。
    −−「悩んで読むか、読んで悩むか 培ってきた感性で独自の交流を 壇蜜さん」、『朝日新聞』2018年01月14日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2018011400015.html



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