覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 思い煩うより優雅に笑ってすごそう 吉田伸子さん」、『朝日新聞』2018年02月04日(日)付。


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悩んで読むか、読んで悩むか
思い煩うより優雅に笑ってすごそう 吉田伸子さん
2018年02月04日

61年生まれ。書評家。「本の雑誌」の編集者を経てフリーに。著書に『恋愛のススメ』。

■相談 働かない上司をぎゃふんと言わせたい

 法律事務所に勤めています。上司が仕事をしないくせに偉そうな態度で馬が合いません。仕事中にネットを見たり、何をしているかわからなかったりすることがあります。私に気を使ってくれるときもありますが、機嫌が悪いときは怖いです。ぎゃふんと言わせてやりたいです。何かいい本があったら教えてください。
 (岡山市、事務職員、女性・34歳)

■今週は吉田伸子さんが回答します

 あぁ、あぁ、お気持ちお察しします。個人的な付き合いならいざ知らず、職場での人間関係、しかも相手が上司というのは、逃げ場がないだけに、辛(つら)い。気持ちの中に日々澱(おり)が溜(た)まっていくというのは、相当なストレスですよね。ぎゃふんと言わせたいお気持ち、分かりますとも!
 ただ、こんなふうに考えてみることはできないでしょうか? 嫌な上司に思い煩うのは、「感情の浪費」だと。「感情の浪費」というのは、理不尽な出来事があって、でも、その思いのやり場がなく悶々(もんもん)としていた私に、相談に乗ってくれた友人が言った言葉です。
 はっとしました。そうか、これは「浪費」なのか、と。そして、思ったのです。そんなことで浪費するのは嫌だなぁ、と。相談者さんも、そんなふうに思ってみるのはどうでしょう。それだけでも、日々のストレスは、少しだけ軽くなるかもしれません。
 同時に、相談者さんにお薦めしたいのは、人生を楽しむためのヒントになる本、です(ぎゃふんと言わせたい、と思うこと自体、勿体(もったい)ないじゃないですか)。カルヴィン・トムキンズ『優雅な生活が最高の復讐(ふくしゅう)である』(青山南訳、新潮文庫、品切れ)と、北大路公子『生きていてもいいかしら日記』の二冊を。
 前者は1920−1930年代をパリで過ごしたアメリカ人の画家ジェラルド・マーフィとその妻セーラのきらびやかな交友関係−−ヘミングウェイピカソストラヴィンスキーフィッツジェラルド、等々−−を綴(つづ)ったもの。素晴らしいタイトル(この言葉を相談者さんにお伝えしたかった!)は、二人の息子を病で喪(うしな)った、夫のジェラルドが見つけたスペインのことわざでもあります。
 『生きていてもいいかしら日記』は、札幌在住・独身で、お酒大好きな北大路さんのエッセイ集。「佐藤浩市がとなりに越してきた場合」を常に考えている北大路さんの、“普通だけど普通じゃない”日々は、思わず声を出して笑ってしまうほど。読み終えると、大概のことには動じなくなる、という傑作です。
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 次回は評論家の荻上チキさんが答えます。
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■悩み募集は受け付けを終了しました。
 吉田さんと荻上さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、斎藤環精神科医)、壇蜜(タレント)、穂村弘歌人)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)。
    −−「悩んで読むか、読んで悩むか 思い煩うより優雅に笑ってすごそう 吉田伸子さん」、『朝日新聞』2018年02月04日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2018020400013.html





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