覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか ゆっくり人の言葉に触れる時間を 荻上チキさん」、『朝日新聞』2018年02月11日(日)付。

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悩んで読むか、読んで悩むか ゆっくり人の言葉に触れる時間を 荻上チキさん

悩んで読むか、読んで悩むか
ゆっくり人の言葉に触れる時間を 荻上チキさん
2018年02月11日

 81年生まれ。言論サイト「シノドス」編集長。TBSラジオ「Session−22」パーソナリティー。

■相談 必要以上に落ち込んでしまう

 すでに起きてしまったことや失敗したことにこだわり、ふさぎ込んでしまうことがあります。進路や恋愛だけでなく、干し方が悪くて洗濯物がにおってしまったといった日常の出来事でも。失敗はやり直せばいいし、起きたことは受け入れ次の策を考えればいいと、頭ではわかっていても気持ちが切り替えられません。一歩を踏み出すアドバイスをお願いします。
 (仙台市、大学生、男性・23歳)

■今週は荻上チキさんが回答します

 人生は失敗の連続ですね。そのうえ、過去を思い出して苦しくなることもしょっちゅうです。シャワーを浴びながら、急に昔の失敗を思い出して「うおおおお」と叫んだり、街中で思い出して「うわ死にたい」と口にしてしまい、隣の人にギョッとされたり。さて、どうしたものでしょう。
 そんな時、僕は人の言葉を求めます。友人がいない場合は、エッセイに頼ります。教訓ではなく、人の話を聞くこと、腕のいい文章を読むことが目的です。そうすると、いろいろなことに気づきます。
 『ベスト・エッセイ』というシリーズがあります。毎年発売されていて、数十人の書き手のエッセイがまとめられています。その年の名文が集められているので、読み応えがあります。自分好みの書き手を見つけるきっかけにもなります。お得感があるので、各号を買って、風呂場のそばに置いています。
 辛(つら)いことがあると間もなく手足が冷えて具合が悪くなるので、風呂を沸かし飛び込みます。そこでゆっくりとエッセイを読むのが日課です。何かしんどい時に「帰ったら風呂入るぞ」「じっくり本読むぞ」と思えるだけでも幾分(いくぶん)かマシになります。
 2017年バージョンのラインナップで言えば、歌人穂村弘さんが好きです。人の弱さや失敗を、巧みにことばにして笑わせてくれます。作家の三浦しをんさんも好きです。自分の感情の動きを、気取らず滑稽に披露してくれます。他人のとほほな話を読むと、「この人でも生きてるわけだし」と勇気付けられます。逆に、セレブな生活を送っている人の文章も、「そういうのもあるのか」と世界を広げてくれます。他の本でも、2017年も好きなエッセイにたくさん出会いました。
 評論は社会に効きますが、文芸は人生に効きます。どうせ失敗してくよくよするのだから、上手に分散された避難先があると助かります。一歩外に踏み出すのではなく、穴に飛び込んでかくまってもらう。そんな時間があってもいいと思うのです。
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 次回は俳優の石田純一さんが答えます。
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■悩み募集は受け付けを終了しました。
 荻上さんと石田さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。斎藤環精神科医)、壇蜜(タレント)、穂村弘歌人)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。
    −−「悩んで読むか、読んで悩むか ゆっくり人の言葉に触れる時間を 荻上チキさん」、『朝日新聞』2018年02月11日(日)付。

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