日記:「社会主義と国家」「直接立法」「社会主義と婦人」に見られる幸徳秋水の卓見

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 読者のとくに留意すべきは、「附録」において秋水が「社会主義と国家」「直接立法」「社会主義と婦人」を論じていることである。
 第一に、かれは、すでに、ここにおいて階級支配の権力機関としての国家が死滅するというエンゲルスを引用している。
 第二に「社会主義と婦人」では従来の社会組織が男子の玩弄物にしたにたいして、婦人を解放し独立の人格者とするのは、ひとり社会主義の実行あるのみとしている。
 第三に、人民の大多数をしめる勤労階級のために民主主義を徹底化せんとする以上、たんなる議会的代議制をもってしては、その実現が困難であるから、つとに秋水は国民投票(レフェレンダム)および憲法改正の直接発議権(イニシアティヴ)を提案する。当時アメリカ合衆国でも、この市民的民主主義の最高形態を採用していたものはごくすくなく、官吏にたいする国民の罷免権は、一九〇八年のオレゴン州の法律を最初とする。
 しかるに、秋水がレフェレンダム(「人民投票」)とイニシアティヴ(「人民発議」)を提案したのは一九〇三年である。しかもそれはほかならぬ日本における絶対主義をうち破らんがためであった。第二次世界戦争の後に人民民主主義諸国の憲法では、間接の民主主義ではなく、直接民主主義をとるから、このレフェレンダムとイニシアティヴが最もひろく採用されてきた(ドイツ民主主義共和国憲法第八十一条以下)。日本ではわずかに規定されていた憲法改正最高裁判所の裁判官の審査(日本憲法第九十六条第七十九条)のばあいの国民投票すら、やめようとしている復古調とは正反対である。日本のいまの国民は、四十年前の秋水にたいして、その反動を恥じないのであろうか。
    −−平野義太郎「解題」、幸徳秋水社会主義神髄』岩波文庫、1953年、94−95頁。

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