覚え書:


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「くらし」の時代 米澤泉 著

2018年3月4日

◆流行より丁寧さ志向
[評者]森彰英=ジャーナリスト
 いま世の中で起きている動きに驚いたり、その底流を説明されて納得しながら、一気に読み終えた。著者は近年発行された膨大な雑誌群(主に女性誌)に分け入り、読者の意識の流れを描出していく。

 序章「Jファッションの登場」では特集のタイトル「ユニクロでよくない?」に着目。「よくない?」の意味を分析し、カジュアルファッションに対する意識の変化を追跡する。第一章「なんとなく、エシカル」では、女性の美、衣、食のオーガニック意識を捉え、これらの根底にあるエシカル(道徳的・倫理的)な気分に迫る。本書が単なるトレンド観測に終わらなかったのは、このような深読み、裏読み、重ね読みの成果であろう。

 後半で著者の視点はさらに深化する。本を「家具化」した店の仕掛け人や、名門雑誌の伝統を覆した編集者の心の内側を捉え、ライフスタイル誌が掲げる「ていねいなくらし」とは何かを追求する。そして「服はもう流行(ファッション)ではない。個性的で、ていねいなくらしこそライフスタイルというファッションだ」という結論にたどり着く。

 ところで本書に登場するのは二十代から五十代女性で、男性の存在感は薄い。団塊世代のくらしについても言及してもらいたいと思ったところで、「それをするのはあなた方です」と著者から挑発を受けたような気がした。

勁草書房・2808円)

<よねざわ・いずみ> 1970年生まれ。甲南女子大准教授。著書『「女子」の誕生』。

◆もう1冊
 轡田(くつわだ)竜蔵著『地方暮らしの幸福と若者』(勁草書房)。関心が高まる地方暮らしの幸福を実現するための条件を探る。
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東京新聞:「くらし」の時代 米澤泉 著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)