覚え書:「本のエンドロール 安藤祐介 著」、『東京新聞』2018年04月15日(日)付。

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本のエンドロール 安藤祐介 著

2018年4月15日

◆奥付の奥にある人の想い
[評者]カニエ・ナハ=詩人、装幀家
 本にもエンドロールがあることに、うかつにも私は、本書を読むまで気づかずにいた。たくさんの本を読んできたのに。詩人の、装幀(そうてい)家のハシクレとして、私も何冊か本をつくっているのに。一冊の本をつくるのに、これほどまでにたくさんのひとたちが関わっていること。彼らそれぞれに、それぞれの仕事へのこだわりや情熱があり、それらが一冊の本に結実していること。そして、彼らにもそれぞれの生活があり、それぞれの家族や大切な人があり、それぞれの物語があることに、本書を読むまで、気づかずにいてしまった。

 本書の主人公は印刷会社の営業で、名前を浦本学(うらもとまなぶ)という(彼を通して、私たちは普段目にすることができない、本づくりのうらがわを学ぶ)。彼は出版社と印刷所を往来し、編集、印刷職人、デザイナー、校正など、人と人とを、仕事と仕事とを日々繋(つな)いでいる。本づくりの生命線、血管のような役割をしている。主人公をはじめ本づくりのプロセスを担う、どの登場人物にも生き生きと血が通っているのは、著者が三年間にわたって実際の印刷会社、製本会社、出版社の方たちを取材した賜物(たまもの)だろう。描かれた印刷職人の仕事の手つきにほれぼれとさせられ、営業や編集や書店員の本を届けたい想(おも)いがあふれるセリフたちに、胸が熱くなる。このひとたちがいれば本の未来は大丈夫、とおもわせる(電子書籍と紙の本が引き立て合うことで共存していく提案も、物語の中でされている)。

 本書を読んだあとで、この本が、そして他のどの本も、読む前よりも掌(てのひら)に重たく感じられる。その重たさが、いとおしい。それはつくったひとたちの魂とでもいうような、かけがえのない重たさだ。エンドロールである奥付の、その奥にある、普段は見えない真のエンドロールを、本書は私たちに見せてくれる。一文字も見逃してはいけない、至上のエンドロールなのに、うかつにも私は、視界が滲(にじ)んでしまって読むことが困難になってしまった。

講談社・1782円)

<あんどう・ゆうすけ> 1977年生まれ。作家。著書『営業零課接待班』など。

◆もう1冊 
 稲泉連著『「本をつくる」という仕事』(筑摩書房)。書体開発、製本、印刷、校閲、製紙、装幀など、本作りを支えるプロに聞く。
    −−「本のエンドロール 安藤祐介 著」、『東京新聞』2018年04月15日(日)付。

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東京新聞:本のエンドロール 安藤祐介 著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)



本のエンドロール
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