日記:「自分の義務遂行が犯罪であったことを識っておどろきながらも、決してそのことは理解しない」ルドルフ・ヘス


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 もし、私が、この地(クラカウ)で、思いもかけていなかった人間らしさと理解で迎えられなかったならば−−絶対に私は、こうした自己告白、自分の内奥の自我の暴露を、がえんじることもなかったろう。だが、その理解は、私の心の武装を解いた。この人間的理解にたいしては、不明な事情を私の及ぶかぎり明らかにすべく、力添えして応えねばならぬ負い目がある。
 だが、私はこの手記を取りあげるに当って、妻や子供たちにかかわる事柄、また、私の心の動き、内奥の疑惑などはすべて、公けの目にさらされぬようにと願っている。
 世人は冷然として、私の中に血に飢えた獣、残虐なサディスト、大量虐殺者を見ようとするだろう。−−けだし、大衆にとって、アウシュヴィッツ司令官は、そのようなものとしてしか想像しえないからである。そして彼らは決して理解しないだろう。その男もまた、心をもつ一人の人間だったこと、彼らもまた、悪人ではなかったことを。
    −−R・ヘス(片岡啓治訳)『アウシュヴィッツ収容所』講談社学術文庫、1999年、375−376頁。

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書評:「ホロコースト」を理解するための3冊 | すたぽ-Starting Point-