日記:ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの初期短編集『旅のスケッチ』(筑摩書房)


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 カプリとアナカプリから半々の地点で、ふたりは出逢った。彼女はしばしば呆然と辻馬車に坐っていたが、つぎの瞬間、走りでて、彼の腕に飛びこみ、幸福にうち震えながら声をあげて泣いた。説明も質問も必要なかった。
 ただ、グレンロス氏は「どう?」といった。そして彼女は迷わず答える。
「そうね−−カプリはもういや!」
    −−トーベ・ヤンソン(冨原眞弓訳)「カプリはもういや」、『旅のスケッチ トーベ・ヤンソン初期短篇集』筑摩書房、2014年、184頁。

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ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの初期短編集『旅のスケッチ』(筑摩書房)。ヨーロッパの都市を旅人の目で冷静にそして繊細に観察した小説群。生活とは時にくだらなく時には滑稽でもあるが、瑞々しいスケッチは日常を美しく愛おしくさせる。訳者がヴェイユ研究者の聖心女子大の冨原眞弓さんで驚いた。

やがてフィンランドも第二次大戦に巻きこまれていき、明るい色彩の絵が描けなくなった画家ヤンソンは、「一種の現実逃避として」と言い訳しつつ、子どもむけのお話を書き始める=富原眞弓・訳者あとがき。『小さなトロールと大きな洪水』にはじまる連作が「ムーミン」である。