書評:ジーン・シャープ(瀧口範子訳)『独裁体制から民主主義へ 権力に対抗するための教科書』(ちくま学芸文庫)。

ジーン・シャープ(瀧口範子訳)『独裁体制から民主主義へ 権力に対抗するための教科書』(ちくま学芸文庫)紐解く。

なぜ非暴力不服従が有効なのか? 答えは簡単だ。独裁者は統治する民衆の支えを必要とするからだ。歴史的変革を事例に198の方法を提案する本書は、現在日本で最も読まれなければならぬ一冊である。

圧倒的な独裁を倒す最初のステップは、人々が恐怖心を払拭することであるとジーン・シャープは強調する。「ここで語られる方法論は、動かしがたく見える社会システムを変えるためにも有効なものである。しかもそれは、天才でない、ごく普通の人間にも実践可能なもの」=訳者あとがき。

ガンディーは、自伝(『ガンジー自伝』中央公論新社)のなかで「しかしわたしは、ひとりの人に可能なことは、万人に可能である、とつねに信じている。だから、わたしの実験(=ガンジー自身がこれまで語り、行動してきたこと)は、密室の中で行われたのではなく、公然と行われてきた。そして、わたしはこのことのために、実験の精神的価値が減じたとは考えない」と語っているが、本書が指し示すのはその具体例である。

「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」「何をやっても変わらない」ーー。抵抗するだけ無駄という諦めと暴力的手段に訴える蛮勇が人間の自由と平等を実現する上で最大の敵なのかもしれない。だとすれば、一個の人間が責任をもち、その人間理解と社会認識を変革することで、人間を苦しめる環境をも変革してしまうことは明らかである。「権力に対抗するための教科書」とは自己更新の異名ではないだろうか。