覚え書:「国旗・国歌 新たに15大学が実施 今春、前文科相要請うけ 国立大アンケ」、『毎日新聞』2016年05月01日(日)付。

Resize2279

        • -

国旗・国歌
新たに15大学が実施 今春、前文科相要請うけ 国立大アンケ

毎日新聞2016年5月1日 大阪朝刊
 
 下村博文文部科学相(当時)が昨年6月、すべての国立大(86大学)の学長に入学式や卒業式での国旗掲揚と国歌斉唱を要請した後、15大学が対応を変え、今春から国旗掲揚や国歌斉唱などを実施していたことが毎日新聞のアンケートで分かった。いずれも「大学として主体的に判断した」と答えた。うち6大学は文科相要請が学内議論のきっかけになったとした。【大久保昂、畠山哲郎】

 毎日新聞は4月、すべての国立大を対象に2015年と16年の入学式と卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況などについて書面で尋ね、81大学から回答を得た。福島大、東京大、東京医科歯科大、福井大、政策研究大学院大は回答しなかった。

文科相の要請後に対応を変えた大学
 集計の結果、今春の式典で76大学が国旗を掲揚した。このうち弘前大、宮城教育大、信州大、和歌山大の4大学が大臣要請後に対応を変えていた。

 一方、国歌斉唱は14大学が実施。このうち今春から始めたのは、愛知教育大、兵庫教育大、奈良教育大、鳥取大、佐賀大、北陸先端科学技術大学院大の6大学。また、宇都宮大、東京学芸大、東京海洋大、島根大、九州工業大の5大学は斉唱はしなかったものの、演奏や歌手による独唱という形で、今春から式典の中に国歌を組み込んだ。

 国立大の入学式などにおける国旗掲揚・国歌斉唱を巡っては、安倍晋三首相が昨年4月の参院予算委員会で「税金によって賄われているということに鑑みれば、教育基本法にのっとって、正しく実施されるべきではないか」と答弁した。

 これがきっかけとなり、当時の下村文科相が同6月、国立大学長を集めた会議で「各大学の自主判断」としながらも、「長年の慣行により国民の間に定着していることや、国旗国歌法が施行されたことも踏まえ、適切な判断をお願いしたい」と事実上の実施要請をした。

 また、後任の馳浩文科相は2月の記者会見で、岐阜大が国歌斉唱をしない方針を示したことに対し、「日本人として、国立大としてちょっと恥ずかしい」などと述べた。一方で下村氏や馳文科相は「強制ではない」とも述べている。

 小中高校の学習指導要領には、入学式や卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱が定められているが、大学は指導要領の対象外となっており、こうした決まりはない。

国費頼み、苦肉の対応
和歌山大、ゆかりの13カ国旗ズラリ 宇都宮大、強制避け「君が代」教員独唱
 下村前文科相の要請後に対応を変えた国立大は全体の2割弱。一方で従来の方針を維持したものの、要請に反応した大学は少なくない。

 昨年まで国旗掲揚だけをしていた宇都宮大は、改めて式のあり方を検討し、国歌も組み込むことに決めた。ただ、全員での「斉唱」ではなく、声楽を専攻する教員が歌う「独唱」をした。「出席者への強制にならないよう配慮した結果、独唱が適当と判断した」と説明する。

 今春から国旗掲揚を始めた和歌山大は、卒業式で卒業生の出身国や提携先の大学がある13の国旗(日の丸を含む)を壇上に掲げた。海外の大学を参考にしたという。

 豊橋技術科学大は、国歌斉唱の実施を検討したが、外国籍の学生への配慮などから見送った。一方で「納税者への感謝を示すことは重要」との結論に達し、大西隆学長が今春の式で「教育研究活動を通じて国民の期待に応えていく」と表明した。

 対応を変えた大学の中には、教育学部だけの大学が5大学あった。小中高校では近年、式典での国旗掲揚と国歌斉唱が定着している。ある教員養成系大学の関係者は「教育現場で当たり前になったのに、教員を育てる大学が対応しなくていいのかという議論は以前からあった」と明かす。

 国旗掲揚、国歌斉唱とも行わなかったのは、横浜国立、名古屋、京都、九州、琉球の5大学だった。

 日の丸と君が代は多くの国民に受け入れられる一方で、過去の戦争への反省や国民主権の立場から抵抗感を持つ人がいまもいる。特に君が代の斉唱が国立大に広がっていないのは、「学問の自由」をはじめとした自由を重んじる立場が影響しているとみられる。文科省も「大学の自治」を尊重し、以前は踏み込んだ働きかけはしてこなかった。

 今回の要請を無視できない背景として、資金面での苦境を挙げる専門家もいる。国の補助金に当たる「運営費交付金」は、国立大が法人化された2004年度には1兆2400億円あったが、財政難を理由に今年度は1兆900億円まで減らされた。このため各大学は、国が先端研究などに配分する「競争的資金」や民間の研究費を獲得しようと躍起だ。

 ただ、大学政策に詳しい大阪大の平川秀幸教授(科学技術社会論)は「民間資金は期待ほど集まっておらず、競争的資金を得るための研究は、国の受けがよさそうな内容に偏る傾向が広がっている」と指摘。「要請に反応したのも、資金難と無関係ではないだろう。法人化後は研究者の研究時間や論文数が減っており、国立大の疲弊は危機的な状況だ」と話す。【大久保昂】
    −−「国旗・国歌 新たに15大学が実施 今春、前文科相要請うけ 国立大アンケ」、『毎日新聞』2016年05月01日(日)付。

        • -

国旗・国歌:新たに15大学が実施 今春、前文科相要請うけ 国立大、毎日新聞アンケート - 毎日新聞


Clipboard01


Resize1753

覚え書:「書評:<花>の構造 石川九楊 著」、『東京新聞』2016年05月22日(日)付。

Resize2280


        • -

<花>の構造 石川九楊 著

2016年5月22日
 
◆かなと漢字 ふたつの中心
[評者]岸本葉子=エッセイスト
 書家で評論家である著者が、花によって日本文化を読み解いた。自然物の花ではなく、<花>という言葉の構造からだ。前提で著者はまず、日本語の構造を述べる。日本語は単一の言語ではない。漢字により再生産される言葉と、ひらがなに支えられる言葉と、二つの異なる中心を包み込む全体を日本語と呼んでいると。
 ひらがなはどういう文字か。書家らしいとらえ方が興味深い。漢字は筆を垂直に立てて書く。中国で書くことの基盤は、鑿(のみ)で石に刻(ほ)ることだからだ。対してひらがなは筆先を紙に斜めに接し、撫(な)でるように書く。文字を滑らかに連ねることができ、ある文字の最終筆が次の第一筆を兼ねる「掛筆(かけひつ)」「併筆(あわせひつ)」も生まれた。かさね、あわせ、という美学は、ひらがなの書法に内包されていると言えそうだ。
 このひらがなが西暦九〇〇年頃に出来て、ひらがな語の「はな」は、漢字語の「花」に入り込む余地のなかった、端(はな)、離れる、放つ、話すの意味を併せ持つようになる。感傷的な美学の成立だ。 
 文化は疑似中国的なものを脱し、独自の表現領域を広げる。政治、思想、宗教、哲学の表現には、ひらがな語は不向きだが、そこからはみ出る分野、すなわち四季と性愛をうたい上げる。その伝統は「古今和歌集」から現代の流行歌まで続いている。
 しかし読者はこの本を、日本文化の独自性を称讃(しょうさん)するものと受け止めてはならない。著者は言う。漢字語とともにあり、漢字語の抑制のもとで「はな」ははじめて美しく生きると。
 しかるに今は抑制を失い、二つの中心を持つ日本語が均衡を崩し、大きく傾いた姿にある。漢字語の軽視によって、それが担う政治、思想、宗教、哲学の分野は衰えた。「そこに錘鉛(すいえん)を深くしずめる営為がいまとても重要だと思われる」
 クール・ジャパン現象で浮かれている場合ではない。
(ミネルヴァ現代叢書・2160円)
<いしかわ・きゅうよう> 1945年生まれ。書家・評論家。著書『日本書史』など。
◆もう1冊 
 笹原宏之著『訓読みのはなし』(角川ソフィア文庫)。漢字を大和言葉で読む訓読みの歴史をたどり、豊かな日本語の世界を紹介する。
    −−「書評:<花>の構造 石川九楊 著」、『東京新聞』2016年05月22日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016052202000202.html



Resize1754


覚え書:「武満徹・音楽創造への旅 [著]立花隆 [評者]細野晴臣(音楽家)」、『朝日新聞』2016年05月22日(日)付。

Resize2281

        • -

武満徹・音楽創造への旅 [著]立花隆
[評者]細野晴臣(音楽家)  [掲載]2016年05月22日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 
■「音の河」から確かな音を選ぶ

 約800ページ、2段組みの大著を前に、武満徹という音楽家の人生を咀嚼(そしゃく)しようともがいてしまった。誰しも人の一生は一冊の本に納まらないほどの物語があるだろう。だが、ここまでやるとは。本書を読み進めるうちに、いつしか武満本人が目の前で語っているかのように思えてくる。それは著者立花隆の徹底した取材の成果だろう。しかも立花は、音楽への深い知識と洞察力を持っていた。それゆえに難解な現代音楽の理論、例えば12音階のセオリーや音響を素材にしたミュージック・コンクレートなども、わかりやすく説き明かされている。
 何よりも収穫だったのは、武満徹が音楽を志した動機を知ったことだ。戦時中、学生だった武満は勤労動員で埼玉県飯能の軍事基地にいた。ある日、見習士官が慰みに一枚の敵性レコードをかけた。仏シャンソン歌手リュシェンヌ・ボワイエの「パルレ・モア・ダムール」だった。武満はこの歌を聴くや、「戦争が終わったら音楽をやろうと心に決め」たという。この動機がクラシックでも歌謡曲でもなかったことは重要だ。
 僕が武満の音楽に初めて接したのは学生の頃に見た映画でだった。仲代達矢主演の「切腹」(小林正樹監督、1962年)という時代劇だが、武満の映画音楽は琵琶を使った斬新なもので心に強く刻み込まれた。邦楽器をこれほど刺激的な響きとしてとらえた音楽家は他に見当たらない。それは、西欧音楽の考え方を用いて音楽をつくらざるをえない日本の音楽家が抱える矛盾に対するひとつの解答ともいうべき「音」だった。
 武満が明確な音楽ビジョンを持っていたことは以下の言葉からもわかる。「ぼくは作曲をするとき、まず最初は響きのかたまりみたいなもので考えるんです」。芸術には創造という概念がつきまとうが、創造は芸術の単なる側面にすぎない。武満は「音の河の中から、聞くべき音をつかみ出してくることが作曲するということ」と考える。西欧では音楽を建築物のように構築する。無の空間に意味のある構造物をつくることが創造なのだ。だが日本では仏像のように一本の木の中に仏の姿を見いだし、木を削り出していく。まさに塑像(そぞう)と彫像の違いである。
 その違いを、武満は「マイナス空間的な構成原理」という考えから語る。それは芥川也寸志の着想から得られたというが、武満はもともと「音の河」という概念をもっていた。無限の音に満ちあふれた世界から確かな音を選び抜いていくときの「直感」の重要性。それは芸術に限らず、あらゆる生命活動にとって普遍性を持つのではなかろうか。刺激的な本である。
    ◇
 たちばな・たかし 1940年生まれ。74年「田中角栄研究」で金脈追求の先駆者となる。著書に『宇宙からの帰還』『脳死』『サル学の現在』『天皇と東大』『死はこわくない』『読書脳』など。
    −−「武満徹・音楽創造への旅 [著]立花隆 [評者]細野晴臣(音楽家)」、『朝日新聞』2016年05月22日(日)付。

        • -





「音の河」から確かな音を選ぶ|好書好日








Resize1755

武満徹・音楽創造への旅
立花 隆
文藝春秋
売り上げランキング: 11,068

覚え書:「外道クライマー [著]宮城公博 [評者]市田隆(本社編集委員) 」、『朝日新聞』2016年05月22日(日)付。

Resize2282

        • -

外道クライマー [著]宮城公博
[評者]市田隆(本社編集委員)  [掲載]2016年05月22日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 
 
 本書は、谷間の沢筋をたどる「沢登り」に熱中する登山家の手記だ。著者は、「探検的な要素を含んだ」沢登りにこだわり、国内外の秘境に分け入っていく。2012年には立ち入り禁止のご神体「那智の滝」(和歌山県)に登ろうとして警察に逮捕され、職を失った。気落ちしたが、再び沢登りの挑戦を続ける。
 最も多くのページが割かれた「タイのジャングル四六日間の沢登り」が面白い。密林の豪雨に悩まされ、激流に巻き込まれて遭難しそうになるなどトラブル続き。同行するパートナーとの仲も決裂寸前。それでも、ユーモアある語り口を忘れず、苦境を乗り越えてしまうしぶとさがある。
 日本に残された秘境の滝の冬季登攀(とうはん)では、三回に一回は死ぬという確率でも、「生と死の境界線に立つことによって生の実感が湧く」。その言葉がもつパワーに圧倒された。
 日常生活の些事(さじ)でくよくよするのがバカバカしくなり、元気が湧いてきた。
    −−「外道クライマー [著]宮城公博 [評者]市田隆(本社編集委員) 」、『朝日新聞』2016年05月22日(日)付。

        • -





生と死の境界線に立つ|好書好日


Resize1756




外道クライマー
外道クライマー
posted with amazlet at 16.06.29
宮城 公博
集英社インターナショナル
売り上げランキング: 2,312

覚え書:「話そかな、:3 話すな、「公平」の下に」、『朝日新聞』2016年05月01日(日)付。

Resize2283

        • -

話そかな、:3)話すな、「公平」の下に
2016年5月1日 
 
グラフィック・山本美雪
 ■「みる・きく・はなす」はいま

 「どうしたら平和になれるかと先人たちが考えた結晶が日本国憲法。だからとても格調高い言葉なんです」。東京都三鷹市で1月にあった「憲法を記念する市民のつどい」で、国語学者金田一秀穂・杏林大教授(62)はそう話した。

 つどいは1980年から続く。「憲法を暮らしに生かそう」と、市と市民団体が共催し、作家の大江健三郎氏らが講演してきた。

 「小さな頃から憲法が好き」という金田一さんは当初から、国語学者として「憲法で使われている日本語について話そう」と思っていた。ところが、事務局だった市の幹部らは金田一さんを事前に2度訪ね、こんな「お願い」をした。

 「取り立てて9条そのものを話すのは避け、国語学者の立場から憲法を話して下さい」。理由をこう言った。「安保法制がある中で、市が特定の立場だと誤解されたくない」

 幹部らは、前回の講師が「9条を守りたい」と発言し、市議会で問題視されたことも説明した。つどいを批判してきた自民党の吉野和之市議(63)は「講師が毎年、護憲に偏っている。税金を使う以上、違う考えの講師も呼ぶべきで、それが公平だ」と話す。

 市の「お願い」を、金田一さんは「問題を起こしたくないんだな」と受け止めた。「異論が出るのが健全な民主主義なのに、もめるのを問題視するとは。意識せずに同調圧力に加担しているのかも」

 清原慶子市長(64)は「経緯を伝えるのは当然で、圧力を掛ける意思は全くない。広く憲法をひもといてほしいとの思いで、言論の自由は何より尊重している」と説明。案内状に9条の条文を明記したことも強調した。一方、「お願い」した幹部の一人は「周辺自治体が憲法行事をやめる中、つどいを続けるには慎重にやりたい」と話す。

 5月14日の次回のつどいの講師は、地方自治の専門家。経緯を知る市職員は自嘲気味に言った。「地方自治なら、風当たりが強くないから」

    *

 「公平」や「中立」を訴える声が、時として自由な言動を縛る。

 参院で安全保障関連法案が審議されていた昨年8月31日。北海道美瑛(びえい)町で、「皆で考えよう安全保障法案」と題した折り込みチラシが2千戸余に届いた。

 映画「幸福の黄色いハンカチ」になぞらえた黄色の紙に、「今の平和と幸せを次世代につなげたい。私たち美瑛町社会福祉協議会は争いのない助けあいの社会を目ざします」とあった。

 町社協は介護支援などを担う社会福祉法人。ある理事は「戦争は福祉の対極。看過できなかった」。

 1万人の町でチラシは波紋を呼んだ。自民党美瑛支部は「政治的活動」とみなし、中心となった理事らの辞任を求める要望書を社協に出した。社協はいったんは、「啓発活動だ」と突っぱねたが、すぐに謝罪。要望された3人を含む理事4人が辞任した。

 社協の村上和男会長(71)はこの間、釈明に回った。チラシを問題視する商工会の幹部に「これは自民党ではなく町民の声だ」と言われ、思った。

 「自民支持者の多くは企業や商店街。社協はその寄付が頼りなのに、敵に回しては立ちゆかなくなる」

 自民支部井内豊・前幹事長(72)は「政治的中立であるべき社協が正しい姿になるよう、参考意見を出したまでだ。圧力かどうかは受け取り方次第」と話す。社協の村上会長も取材には「政治的圧力ではない」と首を振った。

 だが、辞任に追い込まれた理事の一人は納得がいかない。「自らの行為を否定し、自粛して謝る。圧力は組織の内部にもある」
    −−「話そかな、:3 話すな、「公平」の下に」、『朝日新聞』2016年05月01日(日)付。

        • -


(話そかな、:3)話すな、「公平」の下に:朝日新聞デジタル





Resize2270

Resize1757