覚え書:「「政治が隠す歴史補う」 浅田次郎さん大佛賞、戦争文学の意義語る」、『朝日新聞』2017年05月06日(土)付。

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「政治が隠す歴史補う」 浅田次郎さん大佛賞、戦争文学の意義語る
2017年5月6日



戦争と文学について語る浅田次郎さん=横浜市
 「政治を制御していく『文化の力』というのがあるはずです」。短編小説集『帰郷』(集英社)で大佛次郎賞を受けた浅田次郎さん(65)が先月、横浜市内であった受賞記念講演で、戦後生まれの作家がなぜ戦争小説を書くのか語った。

 日本の戦争文学が充実している背景には、ある「誤解」があるという。

 明治期、日本は「人間をありのまま描こう」という西洋の自然主義を取り入れた。西洋の「ありのまま」は、キリスト教の神の束縛から解放されることを意味した。だが、宗教の縛りがゆるい日本では、「ありのまま」のとらえ方が違った。例えば自然主義文学の代表作、田山花袋の『蒲団』。「教え子の布団にうち伏して泣いたりする。儒教的タブーからの『ありのまま』」になっていった。

 同じ頃、国民全体を覆う苦悩が生まれた。徴兵制だ。家族が引き離され、ことが起きれば命も捨てさせられる。「宗教的な軸のなかった日本の自然主義文学に徴兵の苦悩が結びつき、人の内面や矛盾を描く戦争文学が生まれた」。だから日本の戦争文学では、職業軍人より庶民が多く描かれてきた。『帰郷』に登場するのも、徴兵された学生や商売人たちだ。「この『自然主義に根ざした戦争小説』を引き継いでいきたい」と話す。

 ただ、浅田さんが物心ついた昭和30年代には「戦争の痕跡は街から消えていた」。客観的に資料を読み込んできたからこそ気づき、描ける物語もあった。

 2010年刊行の『終わらざる夏』は、終戦後に千島列島の占守島であったソ連軍との交戦を描いている。「ほとんどの人は知らなかった。外交交渉に不都合な問題は、政治が歴史から葬ってしまうメカニズムがある。これを補うのも文化の、小説家の使命です」

 講演の直前、米国のトランプ政権がシリアを空爆した。浅田さんは「世界中の人が平和を願い続けていても、政治の結果がそうならないのは歴史が証明している」と嘆きつつ、こう続けた。「文学が戦争に反対し続けるのは、大切なことだと考えます。戦争文学を書き続け、こんな話もあったと若い人に理解してもらえれば、その一助になると思っています」(高津祐典)
    −−「「政治が隠す歴史補う」 浅田次郎さん大佛賞、戦争文学の意義語る」、『朝日新聞』2017年05月06日(土)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12924864.html


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覚え書:「書評:反戦後論 浜崎洋介 著」、『東京新聞』2017年07月16日(日)付。

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反戦後論 浜崎洋介 著

2017年7月16日
 
◆「偽善と感傷」の文学超えて
[評者]川村湊=文芸評論家
 <戦後離れ>が加速している。単なる戦後ではなく敗戦後だとか、ポスト戦後といった言葉も、もはや廃語となりそうな勢いだ。そんな中で、「反戦後」を標榜(ひょうぼう)する本書は、それでも戦後(文学や思想)に、一定程度のシンパシーを抱いているのかもしれない。何しろ取り上げられているのが、三島由紀夫坂口安吾福田恆存である。これらの文学者が「戦後」を体現し、その中を生き抜いた表現者であったことは誰も疑わないだろう。中上健次にしろ柄谷行人にしろ、「戦後(文学)」の否定者というより、その完成者であり、その命運にトドメを刺したのだ。
 「政治と文学」という問題設定は失効した。「偽善と感傷」の、左翼主流の戦後文学は、解体し尽くされた。それは、福田恆存吉本隆明江藤淳柄谷行人加藤典洋らの批評家の「戦後(文学)」批判によって、自己批判的に乗り越えられた。だから、著者のこんな言葉に評者は躓(つまず)く。
 「ところで最後に、『日本の右傾化』と言われる現在の事態についてですが、すでにお分かりの通り、それは戦後という『偽善』と『感傷』が機能不全を起こし始めたということの兆候でしかありません。それはただ、ようやく私たちが物事の本質を考えるための前提に立ち始めたということを意味しているだけです」
 しかし、福田恆存が「戦後」の「偽善と感傷」を批判したのは、滔々(とうとう)たる左傾化の潮流の中で、孤独な単独者としての言だ。三島由紀夫の覚悟の自死が、時の社会・文化状況の中で、「発狂」とまで罵(ののし)られたことを、評者は覚えている。真っ赤な嘘(うそ)と、破廉恥な言い逃れと、反知性的な悪口雑言と阿諛追従(あゆついしょう)に満ちた今の政治・社会・文化状況を、彼らが認めるとは思われない。
 「戦後(文学、思想)」に対する真っ当な批評的な総括と、“今の”文化や政治状況の「右傾化」に棹(さお)さす著者の姿勢とが<政治と文学>の間で大きな乖離(かいり)を生むことを、評者は危ぶむ。
文芸春秋・1944円)
<はまさき・ようすけ> 1978年生まれ。文芸批評家。
◆もう1冊 
 加藤典洋著『敗戦後論』(ちくま学芸文庫)。戦後の文学作品を論じながら、大戦の死者の弔いや憲法に対する意識のねじれを指摘。
    −−「書評:反戦後論 浜崎洋介 著」、『東京新聞』2017年07月16日(日)付。

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反戦後論
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覚え書:「書評:みんなの朝ドラ 木俣冬 著」、『東京新聞』2017年07月16日(日)付。

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みんなの朝ドラ 木俣冬 著

2017年7月23日
 
◆今日一日の空気作る
[評者]あべ美佳=脚本家
 木俣冬、という著者名を見て、心臓がどきりとした。私たち脚本家なら知らぬ者はいないほど有名な、ドラマ評を書かれるライターである。
 彼女はきっと心底ドラマが好きなのだろう。連載コラムを多数抱える売れっ子なのに、一般視聴者と同じくらいミーハーな目線をちゃんと維持し、愛も毒もある文章をつづる。その深い考察の根底には、作り手への敬意が見え、実に素敵(すてき)で独特なドラマ評を書かれるのだ。
 だから人気がある。
 『ゲゲゲの女房』『あまちゃん』など主に二○一○年代の朝ドラに特化した本書にも、独自取材に基づいた興味深い撮影秘話がたくさん出てくる。「オンエア中に知りたかった!」と何度も思った。
 とくに面白かったのは、現在の朝ドラ『ひよっこ』を執筆中の岡田惠和へのインタビューだ。何の因果か、9・11の時は『ちゅらさん』を、3・11の時は『おひさま』を書いていた。世の中の悲しい出来事を受け、作り手たちの心はどう変化していったのか。祈りにも似た想(おも)いは、きっと日本中に届き響いたはずだ。
 NHK連続テレビ小説、通称「朝ドラ」。その気風は、日本のその日の空気を明るくも暗くもすると私は思っている。たかがドラマ、されどドラマであろう。
 近い将来、自分もそんな作品に携わり、著者に評されてみたいものだ。
講談社現代新書・907円)
<きまた・ふゆ> フリーライター。著書『SPEC全記録集』など。
◆もう1冊 
 田幸和歌子著『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)。日本の家族や恋愛を描いた朝ドラの歴史。
    −−「書評:みんなの朝ドラ 木俣冬 著」、『東京新聞』2017年07月16日(日)付。

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覚え書:「書評:JAに何ができるのか 奥野長衛・佐藤優 著」、『東京新聞』2017年07月16日(日)付。

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JAに何ができるのか 奥野長衛・佐藤優 著 

2017年7月23日
 
◆飢えさせぬ国家観の欠如
[評者]大原悦子=ジャーナリスト
 農協の中心組織である全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長が、農業への思いや課題などを作家の佐藤優氏と語りあう対談本である。
 いまや日本の農業人口は二十年前の半分。農家の高齢化は進み、耕作放棄地の面積は富山県とほぼ同じという。外からはグローバリゼーションの大波が押し寄せる。変革の時代に、協同組合の「共助」の精神がなぜ必要なのか。ITやAIは日本の農業にどう役立てられるのか。新自由主義時代の「勝つ農業」のあり方など、二人の話は多岐にわたる。しかし、どんなにITや技術が進歩しても、「太陽」と「水」と「土」は人間の力ではつくりだせない。それが農業の宿命であり、自然との共存を無視した極度な合理化には、両氏とも警鐘を鳴らす。
 「農業から日本を立て直す」という最終章では、子どもの貧困や食品ロス、食の安全の問題なども話題に上る。世界中で食料を廃棄し続ければ、そのうち食料を輸入できなくなる時代が来るのではないか、と佐藤氏が投げかけると、奥野会長はオーストラリアの農業大臣の言葉を紹介する。「われわれの最終的な本当の目的とは、自国民を絶対に飢えさせないこと。そのためにはあらゆる手段を尽くします」。中国でも、二年分の食糧を備蓄する施設をいま大急ぎでつくっているという。日本にはそのような発想がないということなのか、と愕然(がくぜん)とする。食料自給率が先進国のなかで最低水準にある日本こそ、安全な食べ物を将来にわたって十分保障し、国民を「飢えさせない」ことが何よりも重要であるはずなのに。
 農業の問題を語るには「国家をどういう視点で捉えるか」というしっかりとした国家論が必要だ、と奥野会長は説く。政府・与党が主導するいまの日本の農業改革には、果たしてどのような国家論、歴史観があるのだろう。農業を担う人だけでなく、私たち「食べる人」も、農業や農政の行方に無知・無関心ではいられない。
(新潮社・1296円)
<おくの・ちょうえ> JA全中会長(8月に退任予定)。さとう・まさる 作家。
◆もう1冊 
 高野誠鮮・木村秋則著『日本農業再生論』(講談社)。「ローマ法王に米を食べさせた男」と「奇跡のリンゴ」を作った男が農業を語る。
    −−「書評:JAに何ができるのか 奥野長衛・佐藤優 著」、『東京新聞』2017年07月16日(日)付。

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JAに何ができるのか
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覚え書:「折々のことば:744 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年05月04日(木)付。

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折々のことば:744 鷲田清一
2017年5月4日

 若いとき、ひなげしの花びらを通して輝く光に心を奪われる時間があったろうか。

 (メイ・サートン

     ◇

 年齢によって人は異なる現実にふれる。不死身の青春、生業に忙しい中年を経て老いを迎え、こんどは「生きること自体」を玩味するようになる。若者に「手を貸す」喜びももてるようになる。そういう変化と成長のなかにこそ人生の「冒険」はあるのに、どうして「若さ」にばかり人はこだわるのかと、米国の詩人・小説家は訝しむ。「夢見つつ深く植えよ」(武田尚子訳)から。
    −−「折々のことば:744 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年05月04日(木)付。

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夢見つつ深く植えよ
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