【覚え書】心身論に関するノート(2)
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村上 若い世代の身体観について
ひとつ言えるのは、身体的な感覚価値がそのまま精神的な感覚価値に結びつく傾向が、時を追うごとに強くなっているということでしょう。つまり頭でっかちから、「気持ちよければそれでいいじゃん」という考え方へのシフトですね。一九六〇年代のカウンターカルチャーとかドラッグ体験とかから一貫して続いている傾向だと思います。それはそれで間違った事じゃないというか、ひとつの精神のあり方だと僕は思う。
でも僕はそれなりの年になってからわかるんだけれど、「気持ちよくあり続ける」と一口で言っても、そんなに簡単なことじゃないんですよね。ただごろんと芝生に寝ころんでいても、なかなかリンゴは勝手に落ちてこない。気持ちよくあり続けるためには、やはりそれなりの努力を払わなくてはならない。そのへんを簡単に手軽に済ませようと思うと、結局たとえばドラッグとか、売春とか、そっちの方に流れてしまいそうな気がします。ですから、あんまり七面倒くさいことを言いたくはないけれど、新しい時代のethics(倫理性)みたいなものはどうしてもある程度必要になってくるんじゃないでしょうか。それは身体性というものを基調にした、より柔軟な哲学のようなものになるでしょうが、この場合妄想的な暴力性(たとえばオウムのような)をきっぱりと排除する力を持つことがいちばん大きな問題になるだろうという気がします。
−−河合隼雄・村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』新潮文庫、平成十一年、116−118頁。
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- 作者: 河合隼雄,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/12/25
- メディア: 文庫
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