「こりゃあ、どうも……ふむ、ふむ。こいつは、へえ、たまらなくうまい」 名古屋の味と酒の歳時記(1) 

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 「いや、どうも、こんなにしていただいたのじゃあ、わるうございますねえ」
 恐縮しながらも明神の次郎吉、わるい気もちではなかった。
 行き倒れの坊さんの始末をしたのは、はじめての次郎吉であるが、これまでには小さな善行を何度もつみかさねてきていて、そのたびに、人びとから感謝されるときのうれしさは、
 (こいつ、たとえようもねえ……)
 ものなのである。
 他人のものを盗み取る稼業ゆえに、盗(つと)めをはなれているとき、他人へつくす親切には骨惜しみをしない。
 差し引き勘定で、
 (このおれは、きっと、畳の上で死ねるにちげえねえ。いや、神さま仏さまが、それぐれえのことをして下さらあな)
 などと、思っているのだ。
 それにしても、今夜は特別に気持ちがよかった。
 なんといっても、浪人ながら大小の刀を腰にした左馬之助が、
 (取るに足らねえ、このおれを荷車に乗せ、梶棒を把っておくんなすったのだものなあ)なのである。
 三次郎は、先ず、鯉の塩焼を出した。
 鯉の洗いとか味噌煮というけれども、実は、塩焼がいちばんうまい。
 酒も、とっておきのを出してくれた。
 「こりゃあ、どうも……ふむ、ふむ。こいつは、へえ、たまらなくうまい」
 次郎吉は、舌つづみをうち、「あんまりのむと、こんんあうめえものが腹へ入りません。ですからすこしずつ……」と、なめるように、ゆっくりと酒をのんだ。
    −−池波正太郎「明神の次郎吉」、『鬼平犯科帳 8』文春文庫、2000年、108−110頁。

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作中の明神の次郎吉が、岸井左馬之助のもてなしをうけたのは「梅雨が明けたばかりの或日の夕暮れであった」わけですが、倫理学徒・氏家法雄が、名古屋の味わいを堪能したのは、そろそろ冬至を迎えようとする或日の夕暮れであった。

仕事で名古屋で2泊3日させて戴きましたが、せっかく写真も撮っておりますので、少しだけ、その味と酒の記録を歳時記としてまとめておきます。

ちなみに自分は、盗(つと)め人ではありませんが、

金曜日の夕刻、新幹線にて名古屋に到着。

愛知の人間から、「名古屋の地下鉄はいっぺん、乗っておいた方がいいですよ。東京のそれと全然違いますからw」と言われていたので、錦のホテルまで二駅ですが利用。

たしかに、少し古い日比谷線の匂いがすると思ったのと、やはり車両が短いということが乗車インプレッション。

駅から5分ということでホテルへ向かうものの、城下町ですからこの地域は碁盤の目の状態。いけどもいけどもホテルへたどり着けず、しょうがなく、客引きのニイチャンに教えてもらってから、なんとか荷物をおろしたものの・・・

夕刻からは、豊橋に住む学生時代の後輩と一献やろうとなっておりましたが、時間がギリギリ。少し遅れる旨連絡入れてから、タクシーにて名古屋駅へとんぼ返り。

半年ぶりの再会に歓び、

「渋くていいところへつれていきますよ」とのことで、案内されたのが、「のんき屋」。

「とんやき」を初めとするホルモン系の焼き物、揚げ物、おでんなどをつまみつつ、「名古屋メシ」を堪能。

おどろくほどやすいことに吃驚すると共に、その味わい深さに度肝をぬかれたことは言うを待ちません。

名古屋のB級グルメを語るうえでは外すことの出来ない名店に感謝です。
しかしホント、安いです。串はだいたい1本・65円ですからねえ。

ちなみに、「とん焼き」とは何かといいますと、いわゆる「ホルモン串」といわれるものがそれに当たるのではないかと思います。

コチラの地域では、豚ホルモンを「とんちゃん」、牛ホルモンを「てっちゃん」と呼びならわしているようです。
※ちなみに隣県の岐阜になりますが、鶏ホルモンは「けいちゃん」

しかし一番の驚きは、日本酒が、未だに2級、3級、特級の分類だったこと。
もちろん、特級を三合ほど頂戴しました。

■ のんき屋
愛知県名古屋市西区名駅2-18-6
052-565-0207
平日 17:00−22:00
土曜 16:30−21:30
日・祝定休
のんき屋 (のんきや) - 亀島/串揚げ・串かつ [食べログ]



さて……。
同日、20:30から次の忘年会?の予約が入っておりましたので、後輩くんに名駅経由で次のお店に案内してもらってから、次の戦い。

ちょうど翌日からスクーリングで倫理学講義の予定なのですが、その翌日に愛知近郊の学生さんたちと忘年会をやる予定になっていたのですが、

「じゃあ、前日にプレ忘年会をしましょうよ」

……という怖るべき提案がありましたので、それに受けてたった次第です。
※皆さん、ありがとうございました。

「センセは、いつもキチンと食べずに呑んでばかりだから、名古屋のお約束の料理をきちんと案内しますよ」

⇒ということで、「手羽先」に白羽の矢が立っておりましたので、訪れたのが、「風来坊」。

世界の山ちゃん」は東京などに進出しておりますので、どこでもやることができるのですが、「風来坊の方がウマイ!」……ということでお店をセレクトして戴き、

再度乾杯。

お恥ずかしい話ですが、味を覚えておりません。
記憶と共にどこかに忘れてきたようですね(苦笑

ちなみにこのあと、名古屋コーチンの名店で実は昨年も2次会で利用した「樞 くるる 名駅店」にいった「ようです」。


■ 風来坊 名駅センチュリー豊田ビル店
愛知県名古屋市中村区名駅4-9-8 センチュリー豊田ビルB1
052-533-2677
風来坊 名駅センチュリー豊田ビル店(名駅/居酒屋) - ぐるなび


■ 樞 くるる 名駅
愛知県名古屋市中村区名駅4-3-11
052-541-7772
樞 くるる 名駅店(名駅/焼き鳥) - ぐるなび




まあ、一日で、ディープ名古屋から定番の名古屋まで堪能させて戴き、ありがとうございました。お陰で……次の日、授業の初日はきつかったです。
※とはいえ、最高の授業をつくったことは言うまでもありません(キリッ

蛇足ついでですが、昼食は「コメダ珈琲」にて、(小さいサイズの)「シロノワール」を頂きました。甘い味わいに疲れが癒されたというものです。


いわゆる初コメダという次第です。




⇒ 画像付版 「こりゃあ、どうも……ふむ、ふむ。こいつは、へえ、たまらなくうまい」 名古屋の味と酒の歳時記(1) : Essais d'herméneutique

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