覚え書;「異論反論 民主党代表選で次期首相が決まります 『12年問題』対応できる人を 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2012年8月24日(水)付
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「異論反論 民主党代表選で次期首相が決まります 『12年問題』対応できる人を 寄稿=佐藤優」
29日に民主党代表選挙が行われる。ここで選出された新代表が次期首相になる。筆者が望むのは、2012年問題に対応できる首相が誕生することだ。
来る12年には、日本の国益に死活的な影響を与える国家の元首が交代するか、もしくは選挙を向かえる。ロシア、米国、韓国で大統領選挙が行われる。中国では、共産党代表者大会が行われ、習近平国家副主席が国家主席に昇格することが確実視されている。また、北朝鮮では故金日成主席の生誕100周年になるため、金正日氏から金正恩氏への権力の移行が本格的に始まる可能性がある。
現在、世界的規模で構造転換が生じている。欧州のソブリンクライシス(国家債務危機)が米国に波及する可能性を過小評価してはならない。さらにノルウェーの連続テロ、英国の暴動のような、移民問題をめぐる社会不安が高まっている。危険なのは、ナチズムに対する反省から、欧州では駆逐されたはずの人種主義が、移民を排除する論理としてよみがえってきていることだ。肌の色という当事者の努力によっては絶対に解消できない要素で差別されるのは理不尽だ。かつて人種差別問題では「黄禍論」でわれわれ日本人も苦しめられた。欧州の病理である人種主義の矛先が日本人、中国人、韓国人などの「黄色人種」に向けられる潜在的危険性も排除されない。
このような状況を背景にして、各国は無意識のうちに国家機能を強化している。国際関係は力の均衡によって成り立っている。ある国家が弱くなれば、従来の均衡線は変化する。東日本大震災による大量破壊によって日本は弱くなった。ロシアが北方領土、韓国が竹島に対する不法占拠を固定化する動きを強化しているのも、中国が尖閣諸島に対する日本の実行支配を切り崩そうとしているのも、勢力均衡線を引き直そうとする動きである。
中国の軍事的野望にロシアの日本接近も
外交の世界で首脳は国家を人格的に体現する。19世紀末から20世紀前半の帝国主義外交んびおいて国家の運命に首脳の個性が果たす役割は極めて大きかった。現下の国際情勢もそれに似ている。例えば12年3月に予定されているロシア大統領選挙でメドベージェフ大統領が再選されれば、北方領土交渉は動かず、日露関係は停滞する。プーチン首相が大統領に返り咲けば、ロシアは北方領土問題で日本に対して譲歩するとともにエネルギー戦略での提携を深める。なぜならプーチン氏は、訓練用空母を就航させ、世界的規模での軍事大国になる野望を隠さない中国が、ロシアにとって現実的脅威であると認識しているからだ。
外交をよく勉強し、交渉力のある政治家が首相にならないと、2012年問題に対応できず、国益を毀損する。
−−「異論反論 民主党代表選で次期首相が決まります 『12年問題』対応できる人を 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2012年8月24日(水)付。
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佐藤優(1960−)氏の指摘は、大げさではなく、外交の現場に長年従事してきた人間の率直な警鐘なのではないかと思う。
ただ佐藤氏の危惧はもっともだけど、僕の危惧はまったく別の所に存在します。
ようするにその警鐘をうけての「対応」という部分なのですけど、きちんとした対応ができないゆえに結果としておるずになってしまうのではないかというのがそれです。
さて……。
近代に「発明」された擬体にしかすぎない国民国家という枠組みを歴史と文化を背負った運命共同体と見なす近代以前の復古的国家主義者たちの無能さは明らかだし、僕自身はアナキストだから、そうした枠組みが何に準拠されようとも、強化されるのは辟易としてしまうのですけど、建前としての「国民国家」を継続させるというのであれば、どうしても対外的なインテリジェンス機能と能力は磨き上げ強化していくことだけは必要不可欠だとは思います。
しかし、歴史を振り返ってみた場合、どうもこの国では、そうした機能や能力を磨き上げていく労作業を割愛して、返す刀となった遠心力を利用して、国内的な求心力を高めることで……例えば、国家が「それとなく」音頭をとって排他的拝外主義を蔓延させて考えるべき問題にフタを閉じ、なんとかその暑さで乗り越えようーや式のまったく使い物にならないアプローチ……対応してしまうという「お粗末」を繰り返してしまうことが多く、今回またしても同じ轍を踏んでしまうとなれば、先の敗戦以上の惨禍を繰り返してしまうのじゃないの???などと危惧する次第です。
国際情勢のなかで、国家機能を強化することはよくわかります。
しかしながら、何を強化すべきなのか……精確なリソースの注ぎ方を確認した上で、機能強化をしていかない限り、付け焼き刃の機能強化は、かえって弱体化を招いてしまう、否、国際社会からも大きな反撥を招来してしまうことだけは歴史から学ぶしかありませんよね。
ほんと、どうなるんでしょうか(´Д` )
⇒ ココログ版 覚え書;「異論反論 民主党代表選で次期首相が決まります 『12年問題』対応できる人を 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2012年8月24日(水)付: Essais d'herméneutique