覚え書:「これが言いたい:被災地の私立大学には大きな可能性がある=石巻専修大学長・坂田隆」、『毎日新聞』2011年10月27日(木)付。





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これが言いたい:被災地の私立大学には大きな可能性がある=石巻専修大学長・坂田隆

 ◇学生の窮状救う長期的支援を
 東日本大震災の被災地にある一私立大学の長として訴えたい。被災地の私大には、大きな困難と新たな可能性がある。復興のためにも支援が必要だ。
 便宜上、石巻専修大学宮城県石巻市)を例に話を進めよう。本学には約1800人の学生がいる。震災・津波による死者は入学予定者を含め7人。学生の3分の1、職員の4分の1が家を流されたり、家族を失うなどした。今年度は親を亡くしたり、自宅が全半壊した約600人の学費減免を行っており、その費用は6億円に上る。来年度も継続し、新入生にも2年間、同様の支援をする計画だ。
 学費減免については、国の3分の2負担が決定し、予算も計上された。今後「3分の2負担」の確実な実施をお願いしたい。
 実際は、被災学生への支援は長期にわたり必要となる。今後、被災地では厳しい経済状況が続き、学費減免がなければ進学できない学生が大量に出るだろう。アルバイト先も激減し、生活支援も必要だ。日本学生支援機構などが奨学金の枠を拡大してくれたが「現時点で返済見込みを立てられる学生はいない」と断言したい。就職が極めて厳しいばかりか、卒業後、失業した親を養わなければならない者までいるのが実情だ。
 加えて鉄道などの交通インフラの復旧の遅れや、著しい被害の報道による被災地のイメージダウンは、私学の入学希望者を激減させるおそれがある。特に、福島第1原発のある福島県内の大学などは、後者の影響が懸念される。新入生減少は私学の経営を直撃する。 現行の制度では、学生数が定員の91%に満たないと国の補助金が減額され、50%を割るとゼロになる。被災地の厳しい経済状況が続けば、減額対象となる私学は当然出てくるだろう。定員を削れば定員割れは避けられるが、それは教職員の削減につながり、地域経済にも悪影響がある。これらの規定は被災地の大学にとっては重荷だ。一定期間、弾力的な運用を求めたい。
 一方、新たな可能性も生まれつつある。震災を受けて、各大学でさまざまなプロジェクトが始まっている。
 本学では「復興共生プロジェクト」が動き出す。経営学部では仮設住宅調査を行い、地元商店街と協力して買い物弱者の支援をするなど、仮設住宅を快適にする実現可能な方法を探る。
 理工学部では、自動車がどこで津波の被害にあったか、被災した自動車の人がどう助かったかなどの研究をスタートさせる。やがては「命を守る車」の開発につなげたい。

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 震災復興は山のようなテーマを教職員、学生に与えている。国公立大は中立性・平等性が強く求められるが、私学はより機動的、柔軟に地元企業や教育機関と協力できる。
 本学には震災直後、最大で1200人が避難した。体育館には日本赤十字の救護所、校庭には自衛隊ヘリポート、校舎にはボランティアセンターが設置された。決断が柔軟で速い私学は、災害時に大きな役割を果たしうる。
 日本の大学生の約7割が私学で学ぶが、国公立大学への運営費交付金、約1兆2000億円に対し、私立大学への助成は約3000億円に過ぎない。しかし、私学が被災地に存在し続け、個性的で魅力ある人材を輩出することは地域の再生に極めて重要で、それは国全体の力となるはずだ。私立大学による多様な教育、研究が必要な今こそ、支援への皆様の理解を願いたい。

人物略歴 さかた・たかし 東北大学大学院修了、ドイツ・ホーエンハイム大学などを経て07年から現職。比較栄養生理学専攻。
    −−「これが言いたい:被災地の私立大学には大きな可能性がある=石巻専修大学長・坂田隆」、『毎日新聞』2011年10月27日(木)付。

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⇒ ココログ版 覚え書:「これが言いたい:被災地の私立大学には大きな可能性がある=石巻専修大学長・坂田隆」、『毎日新聞』2011年10月27日(木)付。: Essais d'herméneutique


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