あたりの黄ばんだ葉を濡らしながら、地面と植物が発散させるあの十一月の香りを強めながら


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 わたしたちが帰路につくためにふたたび俥の中に腰を下ろすころには、もう地平線の上には黄ばんだ太陽の最後の一端が残っているばかり。
 黄昏の中を、わたしたちは今朝と同じ道を反対の方向にとって返す。小さな谷々の同じ迷路の中の、わたしたちの視野を仕切る小さな丘陵の同じ連なりのあいだにある、あの同じいくつもの稲田を縫って。
 空はヴェールのように落ちてくる大きな雲のためにそっくり蔽われてしまう。そして驟雨がわたしたちの上を通り過ぎる。あたりの黄ばんだ葉を濡らしながら、地面と植物が発散させるあの十一月の香りを強めながら。
    −−ピエール・ロチ(村上菊一郎・吉永清訳)『秋の日本』角川文庫、昭和二十八年、98頁。

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いちばん過ごしやすいのが僕としては11月かなぁと思うのですが、月曜日、大学へ出講したおり、キャンパスの紅葉がそろそろいい感じではじまりましたので、速報的に紹介しておきます。




⇒ ココログ版 あたりの黄ばんだ葉を濡らしながら、地面と植物が発散させるあの十一月の香りを強めながら: Essais d'herméneutique



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