覚え書:「秘密保全法案:反対意見続々と 識者に聞く」『毎日新聞』2011年12月24日(土)付。




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秘密保全法案:反対意見続々と 識者に聞く

 政府が来年の通常国会への提出を目指している「秘密保全法案」に、研究者など各団体から反対意見が相次いでいる。外交、防衛、治安の幅広い分野で、国家の安全を揺るがしかねない情報を「特別秘密」とし、公務員らによる漏えいに対し厳罰を科すことで未然に防止しようという狙いだ。一方で、国民の知る権利や取材の自由は大きな制約を受けることになる。何が問題点なのか。識者に意見を聞いた。【臺宏士、日下部聡】

 ◇情報非公開、流れ助長−−現代史家・日本大講師、秦郁彦
 政府保有の公文書は国際的慣行に沿って一定の年月(例えば30年)が経過すれば極めて一部の例外を除き原則としてすべてを秘解除して公開する「自動的秘解除」方式を採用するよう私は訴え続けてきた。どんな文書でも担当官が全文に目を通してから秘解除する現行の方式では新たな秘密文書が増加していくスピードに追いつけないからだ。外務省だけは原則として30年経過した外交文書を公開すると宣言しているが、実際には50年以上経過した日ソ、日韓交渉の記録を出していない。

 国立公文書館は「80年原則」を唱えているが、「人手不足」を理由に100年以上前の文書を黒塗りのまま放置している。他省庁では年限さえ決めていないところが多く、問い詰めると1000年前の文書でも申請があれば検討して秘解除することもありうるとの答えにはあぜんとしたことがある。

 情報公開法(01年施行)は、こうした閉塞(へいそく)状況に風穴を開けると期待されたが、抱き合わせで生まれた個人情報保護法(05年施行)によって骨抜きどころか、かえって不自由になってしまった。個人情報の範囲がとめどなく広がり、児童の連絡簿さえ作れなくなる事態を招いている。著名人でも生存や没年を確かめられないので遠からず人名事典の刊行は不可能になりそうだ。

 国立公文書館で開示されたBC級戦犯の裁判記録では、以前は公開されていた被告の人名がアルバイトの手で全部消され(黒塗りされ)ている。館長に会って「せめて館長の判断で消してください」と要望したが、「政府の方針ですから」とにべもなかった。「紫式部徳川家康でも消させているのか」と聞いたら、「人名はすべてと指示しているからそうなっているかもしれません」との返事だ。それでも外国人の名(多くは被害者)を消していないのは不思議である。

 世界最悪とも言える非常識がまかり通っている現状を改めるには、個人情報を含めた30年経過後の自動的秘解除方式しかない。政府はまず情報公開法、個人情報保護法の欠陥是正に着手すべきで、情報非公開に輪をかける秘密保全法は絶対に反対だ。

 ◇知る権利の保障、先に−−弁護士・田中早苗
 今問題になっているのは情報漏えいではなく、情報公開の不十分さだ。

 政府は東京電力福島第1原発事故の直後、放射性物質の飛散に関する情報を隠したため、多くの人が被ばくした。

 秘密保全法制の下では「公共の安全及び秩序の維持」を揺るがすという理由で、こうした情報も秘密に指定されることがあり得る。

 また、最近はクレジットカードやネット書店での購入記録など、プライバシーに関わる多くの情報がコンピューター上に蓄積されており、公安当局の情報収集に利用される可能性がある。名義を勝手に使われるなどして無関係の人が誤って「危険人物」扱いされることもあり得るが、秘密保全法制の下では、そのような情報収集自体が秘密になるため、誰もチェックできなくなる。

 「公共の安全と秩序の維持」が秘密の対象に加えられていることは大きな問題だと思う。

 「適性評価」も基準が曖昧で気味が悪い。日本という同質性の強い国でこれを行うと、家族の思想信条にまで食い込むような息苦しいものになるのではないかと懸念する。

 秘密を管理するのは公務員の中でも幹部や幹部候補だろう。今の人事は、出自や家族がどうであろうと、ある意味では純粋な能力主義によって行われているが、適性評価制度の下では幹部への登用に不透明な裁量が働く可能性がある。日本の公務員制度を変質させる恐れがある。

 政府は秘密保全法制の必要性を説くときに「他国にもあるから」という論理を持ち出すが、歴史の違いを考えるべきだ。

 日本が長らく強力な秘密保護法を持たなかったのは、戦前の体制への回帰を恐れた米国の意向や日本自身の反省があったからだ。政府が例示する欧米諸国の多くは、秘密情報でも50年後には公開が義務づけられるなど、情報公開の原則が確立している。

 日本で求められているのは秘密保全ではなく、先延ばしになっている情報公開法の改正など、国民の知る権利の保障である。(談)

 ◇きっかけは「尖閣ビデオ」流出問題 外交・防衛・治安が対象、罰則も
 秘密保全法案は、沖縄・尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した様子を撮影した映像が10年11月にインターネットの動画投稿サイトに流出したことを受けて、仙谷由人官房長官(当時)が制定に意欲を示したことがきっかけだ。

 この時期、警視庁などが作成したとみられる国際テロに関する捜査資料のネット上への流出が重なり、情報保全が政治問題化。同年12月には官房長官をトップとする「政府における情報保全に関する検討委員会」が設けられ、その下の有識者会議で今年1月からたたき台づくりが始まった。

 今年8月、同会議が公表した報告書によると、「国の存立にとって重要な情報」だとして、「特別秘密」の指定対象は▽国の安全(防衛)▽外交▽公共の安全及び秩序の維持−−に関する3分野の機密情報だ。これらの情報は情報公開法でも不開示にできるとして「国民の知る権利を制約しない」としている。

 特別秘密の取り扱いにかかわる公務員らに対して、日本の利益を害する思想の持ち主かどうかや犯罪歴などの「適性評価」を実施し、対象者は配偶者も含めるという。

 罰則の上限は、故意の漏えいについて、自衛隊法に定める防衛秘密漏えいと同じ懲役5年と、MDA(日米相互防衛援助協定)秘密保護法などと同じ同10年とする2案がある。また、特別秘密にかかわらない一般人も社会通念上是認できない手段による情報入手については、「特定取得行為」として処罰を認めた。「たまたま文書を拾った」などの行為は処罰されないが、取材手法によっては含まれる。政府の検討委員会は「法案化作業に当たっては、国民の知る権利や取材の自由等を十分に尊重する」との留意事項を示した。

 民主党内には取材活動であっても規制するよう求める声もあり、メディア規制法と批判を浴びた個人情報保護法同様、「保全」を口実に不祥事や情報隠しに悪用するという落とし穴を法案に潜ませる懸念は大きい。

 それでは、報告書が参考とした防衛秘密制度は、どう運用されているのか。

 05年、南シナ海で中国海軍の潜水艦が火災事故を起こしたことを読売新聞が報じた。これに対して、陸上自衛隊警務隊は防衛省情報本部の1等空佐を防衛秘密漏えいで東京地検書類送検起訴猶予)。同省は懲戒免職処分にした。当時、識者らからは、付近の民間船舶の安全航行上、率先して公表すべき情報で、秘密には当たらない、との批判が出た。

 検討委員会事務局の内閣情報調査室が作成したリストにある8件の主要な漏えい事件のうち起訴は2件。MDA秘密保護法違反で起訴された元3等海佐の懲役2年6月(執行猶予)が最も重い確定判決だ。また、不起訴(起訴猶予)は4件と半分を占める。現行法による抑止が十分働いているとも言えるほか、リストには立法化して保護する必要性に疑問が残る「尖閣ビデオ」も含まれている。
    −−「秘密保全法案:反対意見続々と 識者に聞く」『毎日新聞』2011年12月24日(土)付。

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http://mainichi.jp/select/seiji/archive/news/2011/12/24/20111224ddm012010028000c.html


覚え書きにコメンタリーするのもナニですが、いやしかし……

PC監視法、それから今回の秘密保全法案。

関東大震災後の一連の治安立法の矢継ぎ早の成立の歴史を振り返ると、危機を煽るわけではありませんが、すこしづつ暮らしにくい世の中へシフトしているような気がするんだよな。

加えて世間様では犯罪が増加しているという権力の利益誘導が功を奏して、「何でも規制じゃ」って空気が圧倒的。

しかし実際には刑法犯罪は減少しているんだよね。
→メディアにも問題はあるけど、刑法犯は9年連続で減少へ 警察庁の犯罪統計 - 47NEWS

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刑法犯は9年連続で減少へ 警察庁の犯罪統計

 警察庁が15日まとめた1〜11月の犯罪統計(暫定値)によると、刑法犯認知件数は、前年同期から9万5633件(6・5%)減の136万9279件で、通年での認知件数は昨年を下回り9年連続で減少する見通し。検挙率は前年同期比で0・2ポイント減の31・6%だった。

 東日本大震災の被害が大きかった岩手、宮城、福島の3県では震災発生後の3〜11月の認知件数を分析。前年同期比で17・6%減少したが、東京電力福島第1原発事故を受け立ち入り禁止となった警戒区域の大半を管轄する福島県警双葉署管内では、窃盗犯が253・8%増となった。
    −−2011/12/16 05:00 【共同通信

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http://www.47news.jp/CN/201112/CN2011121501001765.html


拙速かつコッソリと進む様がこわい。

そもそも考えてみれば、原発の輸出という死の商人と、人間精神の自由を制限しようとする人が同一人物だということ(;_;)も忘れてはいけないんだろねぃ(涙

こちらもご参考。

どうなる秘密保全法案 - Togetter


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