覚え書:「ザ・特集:「通販生活」の思想 創業者・斎藤駿さんに聞く」、『毎日新聞』2011年12月22日(木)付。





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ザ・特集:「通販生活」の思想 創業者・斎藤駿さんに聞く

 ◇原発国民投票呼びかけ/旧ソ連の被災者支援18年
 雑誌「通販生活」が、原発の是非を問う「国民投票」を呼びかけるCMを流そうとして、放送局に拒否された。護憲や環境保護を訴え、旧ソ連チェルノブイリ原発事故で被災した子どもたちを支援する異色のメディア。その「思想」の在りかを、創業者の斎藤駿さん(76)に聞いた。【宍戸護】

 ◇電化製品を売るうちにも「チェルノブイリ」の間接的な責任はある 支援活動を通じて日本の電力会社に注意喚起したかった
 <原発、いつやめるのか、それともいつ、再開するのか。それを決めるのは、電力会社でも役所でも政治家でもなくて、私たち国民一人一人……>。黒い画面に流れる白い字幕を、俳優の大滝秀治さんが読み上げる。「通販生活の秋冬号の巻頭特集は、『原発国民投票』」と結ぶ、30秒のCM。通販生活を発行するカタログハウス(東京都渋谷区)は10月、以前からCM枠を持つテレビ朝日の報道番組「報道ステーション」での放送を希望したが、断られた。
 テレ朝の早河洋社長は11月29日の記者会見で、この問題について<報道番組のCMは番組内容と混同されないようにする><社会・公共の問題で意見が対立しているものについては、できるだけ多くの角度から論じる>という日本民間放送連盟の基準に抵触する恐れを挙げ、現状では国民投票憲法改正しか問えないのに「あの表現だとすぐにでもできてしまうということになる」と語った。

 カタログハウスを訪ねた。

 「正面から『原発をやめさせたい』と主張すれば、テレビCMで禁止されている意見広告になります。ただ、いつやめるか、いつ再開するか、みんなで決めればいいというのは、中立な意見だと思ったのですが……」。創業者で現相談役の斎藤駿さんは、そう話した。結局、ほぼ通常内容のCMに差し替えたが、1点だけ違いがあった。「『原発国民投票を』と刷りこんだ表紙が放映されたことは、進歩ですね」と苦笑した。この号では、作家の落合恵子さんと自民党河野太郎元幹事長代理の対談や、「原発なしでは電力需要はまかなえないのウソ」といった記事が掲載されている。
 早大文学部卒業後、出版社の編集者などを経た斎藤さんが通販生活を創刊したのは1982年。年3回(春、夏、秋・冬)発行で、1号200〜300ページ。1冊180円で書店などで売っている。スポンサー広告を一切掲載しないのも特徴だ。「街では入手しにくい商品」をコンセプトに、生活雑貨から衣類、野菜まで扱い、伊デロンギ社のオイルヒーターなどのヒット商品も世に送り出してきた。著名人の使用体験談や実証実験を載せて多方向から紹介し支持を広げた。「きんさん、ぎんさん」をCMに初めて起用したことでも知られる。現在の読者は約130万人、年商約300億円という。
 雑誌は、通販コーナーが半分を占め、残り半分には、編集部が企画した特集や読み物を掲載。斎藤さんによると、87年、中曽根康弘内閣時代に防衛費が国民総生産(GNP)の1%を突破したことについて、読者に是非を問うたのが政治的主張の始まりという。
 以来、護憲やオゾン層破壊の影響などさまざまな問題を提起し、86年のチェルノブイリ原発事故で被災した子どもたちを、救援するキャンペーンも展開した。
 「原発の危険性を身をもって証明してくれたのが、チェルノブイリで被災した子どもたち。掃除機など電気を使った製品で利益を得ているうちの会社にも、あの原発事故に間接的な責任があると思ったのです」。斎藤さんは声を大きくした。
 通販生活は、旧ソ連が崩壊しかけた90年、チェルノブイリ事故被災者の「現地からの手紙」を載せ、1口2000円の寄付を読者から募り始めた。以後、18年間続いたキャンペーンで集まった寄付は約4億8000万円。チェルノブイリを支援する国内12市民団体や、各地の医師とも連携し、甲状腺がんを診断するための超音波診断装置や、白血病の治療に必要な無菌室、抗がん剤を現地に届けた。チェルノブイリ関連の雑誌記事は通算で100ページを超え、一部は本にもなった。
 「子どもたちの可哀そうな現状を訴える記事を出し続けることで、日本の電力会社に緊張感を持ってほしいという思いも半分あった。チェルノブイリを反面教師として、日本では事故を起こさないで、と言いたかった」。だが、3月11日の東日本大震災で福島第1原発事故が起きた。
 すぐに福島の子どもたちを支援する活動を始めた。読者から救援金を募り、8月末までに集まった寄付は約3600万円。食品の放射線量を測れる測定器8台を、県内に順次設置し、空間線量測定器50台の貸し出しも始めた。夏には福島県の母子約810人を長野県に1週間招待したほか、被災者の甲状腺検査を進めるNPOも支援している。
 だが今、斎藤さんは苦渋の表情を浮かべる。「私たちは結局、原発に反対していたというアリバイ作りをしていただけではないのか。それがうら悲しくてね」
 「新聞は政治や生活のジャーナリズムを追求するが、商品をテストし、批評する通販生活もジャーナリズムの一分野、商品ジャーナリズムと言える。そこから『今の生活はおかしい』という視点が生まれ、社会問題を考えるようになるのは当然の成り行きです。カタログ誌と論壇誌がごっちゃになっているところは、何事もあいまいな今の時代に合っている」。そう語るのは購読者でコラムニストの天野祐吉さんだ。
 一方、同じくコラムニストの泉麻人さんは「広告主体で記事自体は無難なものにまとめている雑誌が多い中、他社広告がないため、広告スポンサーの意向に左右されない、作り手側がやりたいことをやれる数少ない雑誌」と評価する。
 15日、東京・新橋のカタログハウスの直営店を訪れてみた。ミニトマトやニンジン、リンゴなど福島の農産物が店頭に並ぶ。全ての値札の下には1キロ当たり「10ベクレル以下」の表示があった。「15年来の読者」という東京都豊島区の主婦、関京子さん(60)は、これまで通販で掃除機や枕、靴などを購入し、特集ページにも目を通すと言う。「もういい年ですし、放射能のことはあまり気にせず福島の人を応援したい」と、タマネギ、春菊、大葉を買った。
 再び斎藤さん。「通販会社は従来、送り手と受け手が買い物だけで結ばれていましたが、企業が思想を表明し、共感した人が商品を買う時代になっていると思います」
 「原発国民投票」を呼びかけた号の表紙の言葉が、この会社の「思想」を集約しているようだ。

 <今後の原発のありようを決める権利者は、万一のときには子どもの命、ふるさとの喪失、農業牧畜漁業の崩壊を賭けなくてはならない国民一人一人です>
    −−「ザ・特集:「通販生活」の思想 創業者・斎藤駿さんに聞く」、『毎日新聞』2011年12月22日(木)付。

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