覚え書:「記者の目:ソーシャルメディアと新聞=小川一」、『毎日新聞』2012年2月2日(木)付。


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記者の目:ソーシャルメディアと新聞=小川一

 ◇「情報民主主義」実現へ協力を
 ツイッターミクシィフェイスブックなどのソーシャルメディアは、東日本大震災をはさんで日本で大きく進化し、今、その流れはさらに加速している。一方、震災では、マスメディアの一つである新聞も被災者に寄り添う報道を続けてきた。二つのメディアが今後、力を合わせれば、社会はさらによりよい情報を受け取れると思う。毎日新聞社では、月内に研究会を開き、新聞がこの新たな時代にどんな貢献をできるのか考えていく。そして議論の内容は、私のツイッターアカウント(@pinpinkiri)からも随時、発信する予定だ。

 ◇新聞に反省迫る
 最初に震災後のツイートの一部を紹介したい。

 <韓国人の友達からさっききたメール。『世界唯一の核被爆国。大戦にも負けた。毎年台風がくる。地震だってくる。津波もくる……小さい島国だけど、それでも立ち上がってきたのが日本なんじゃないの。頑張れ超頑張れ。』ちなみに僕いま泣いてる。>。これをはじめ、震災では世界中から日本への励ましの声がツイッターで届き続けた。

 福島の詩人、和合亮一さんはこんな詩を寄せた。<放射能が降っています。静かな夜です><髪と手と顔を洗いなさいと教えられました。私たちには、それを洗う水など無いのです>。俳人長谷川櫂(かい)さんの「震災歌集」も私はツイッターで知った。<かりそめに死者二万人などといふなかれ親あり子ありはらからあるを><つつましきみちのくの人哀しけれ苦しきときもみづからを責む>

 私は、これらを時を忘れて読みふけった。そしてソーシャルメディアが持つ力に改めて目を見張った。リアルタイムな情報の伝播(でんぱ)と、励ましと共感の輪の広がり。そこに流れる輝く言葉の数々……。新聞社に入って30年。その多くを警視庁などを担当する社会部記者として過ごしたが、これらの現象は、新聞に大きな反省を迫っていると感じた。

 輪転機に輸送・販売網と大きなインフラを持つ新聞は、テレビやラジオなどとともに長く発信手段を独占してきた。記者たちは、取材の「特権」も得ていた。私も社会部記者時代、この特権から、多くの要人と会い取材することができた。だがツイッターなど、全ての人が発信手段を持った今、新聞記者は特別な存在ではない。記者がひとりよがりや見当はずれの報道をすれば、容易に批判され、直ちに見放されてしまう。

 無論、新聞には大きな存在意義がある。今回の震災でも、新聞は被災地の避難所で奪い合うように読まれた。被災者らは新聞を読んだ後、それを丁寧にたたみ直し、読むのを待つ次の人へと手渡していた。昨年5月、現場でボランティア活動をしていた私は、その光景に胸を打たれた。また石巻日日(ひび)新聞が、被災地で出した手書き(壁)新聞は全新聞人の誇りでもある。

 そこで、一つの提案をしたい。今後、新聞はソーシャルメディアと協力することで、もっと大きな社会的貢献ができると思うからだ。

 ◇「ソーシャル」の健全発展に貢献
 毎日新聞は91年以来、「情報デモクラシー」というキャンペーンを続けてきた。公権力や企業が隠す情報を市民の側に取り戻す「情報主権」「情報民主主義」の実現を目指すものだ。キャンペーンでは情報公開法の制定を求め、制定後はその運用の問題点を追ってきた。また、公権力によるメディア規制の危険性を指摘し告発もしている。

 ソーシャルメディアが広がる中、私はさらに進化した「情報デモクラシー」を目指したい。今、全ての人が自由に発信し、誰とでもつながれる社会が訪れた。だがネット上では、名誉毀損(きそん)やプライバシーの侵害、偽情報などが横行する。そこで、マスメディアはソーシャルメディアの健全な発展に貢献すべきだ。

 新聞記者がソーシャルとマス二つのメディアを結ぶことからそれは始まると思う。ネット上に拡散する情報の信頼性を、記者がソーシャルとマス双方で指摘する。自らの取材のプロセスを公開し、記事化の前に読者とやりとりする……。いろいろなことができるはずだ。(コンテンツ事業本部)

 ◇ソーシャルメディア
 ネット上で人と人をつなぐメディアの総称。新聞、放送などマスメディアが不特定多数への一方通行の発信なのに対し、利用者同士が双方向で発信できる。世界で8億人が使うフェイスブックのほかツイッターミクシィなどが代表。

 ◇ツイッター
 06年に米で始まった無料のネットサービス。利用者の名前などを登録しアカウント(ツイッター上の名前)を取得すれば短文(ツイート)を投稿できる。また「フォロー」機能で他のユーザーを登録すると、そのユーザーのツイートを自動的に収集できる。フォローした人を「フォロワー」と呼ぶ。
    −−「記者の目:ソーシャルメディアと新聞=小川一」、『毎日新聞』2012年2月2日(木)付。

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