書評:荻野昌弘編『文化・メディアが生み出す排除と解放 差別と排除のいま』明石書店、2011年。


メディアの排除と解放の両方に注目し、新しい排除と差別の多様さをあぶり出す

荻野昌弘編『文化・メディアが生み出す排除と解放 差別と排除のいま』明石書店、2011年。

「安易に『良い文化』と『悪い文化』に文化を色分けし、良い文化だけを増やせばいいというわけではない。単純に排除する文化を『排除』して、そうでないものにすればいいというわけではない」。

文化やメディアの排他性の指摘はその歴史と共に存在する。しかし一方的にメディアの差別性や差別用語を批判するだけでは問題は解消されないだろう。本書はタイトルに「排除と解放」と銘打たれている通り、その排除と解放の両方の側面に注目し、その「今」を描きだす。
 例えば、第1章は「食とマイノリティ」、食と差別を扱っている。何を食べるか、そして何を食べないかで、仲間意識が創られたり、あるいは敵が創られたりする。大阪市内の沖縄出身者、在日朝鮮人、そして被差別部落のひとびとからの聞き取り調査は、食に関する差別を描き出す。そして食事を通じてひとびとの相互理解が形成されるエピソードも紹介されるが、これはまさに排除の対になる「解放」の側面だろう。

本書が取り上げる話題は食の他に、歌謡曲、スポーツ、(差別を助長する)インターネット、映画やドラマにおける障がい者の表象、漫画と幅広い。

伝統的な差別が見えにくくなっている中で……これは意図的隠蔽と「見ないこと」に由来するがひとまずここでは措く……、インターネットを初めとする新しいメディアに現れる新たな差別と排除がかくも多様な形態であることに驚く。しかし、メディアは私たちの日常生活に深くよりそっているものだとすれば、驚くことでもないのだろう。伝統的な差別や排除も新しいそれと同じように形成されたものも多いのではないかと思う。是非、若い読書に手にとって欲しい一冊である。







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