覚え書:「今週の本棚・新刊:『なのはな 萩尾望都作品集』=萩尾望都・著」、『毎日新聞』2012年05月06日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『なのはな 萩尾望都作品集』=萩尾望都・著
 (小学館・1200円)

 サブカルチャーの筆頭といえるマンガは、時にどのメディアよりも早く、鋭く社会を活写する。福島第1原発事故の後、少女マンガの第一人者がそれを実証してみせたかのような最新の作品群を収録した。
 著者は原子炉建屋の爆発を見てメルトダウンを直感した。それでも「大丈夫」と言い続ける政府と電力会社に「胸のザワザワ」が止まらず、何かを描かずにいられなかったという。表題作はフクシマの少女と津波にさらわれた祖母、そしてチェルノブイリの少女の不思議な物語。絶望の深さゆえに求められる希望を込めた。多くの表現者が創作をためらうなか、事故後わずか3カ月の昨年6月、月刊誌上で発表された。
 「プルート夫人」「雨の夜」「サロメ20××」のSF三部作では、夢のエネルギーとされてきた放射性物質が擬人化される。恐ろしく魅力的な彼女や彼を愛して滅びるのもいい、と思わせるほど。悪(放射能)と善(人)が逆転する「サロメ20××」は、とくに哲学的だ。
 将来、原発事故を誰がいつ、どう描いたかが、あらゆる芸術分野で徹底検証される時、必ず取り上げられる一冊になるはずだ。(阿)
    −−「今週の本棚・新刊:『なのはな 萩尾望都作品集』=萩尾望都・著」、『毎日新聞』2012年05月06日(日)付。

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